【Q&A】積層フィルムはなぜマテリアルリサイクルしにくいのか?
- 本堀 雷太

- 2023年6月1日
- 読了時間: 7分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。
この会員ページでは、会員の皆様からの御質問を随時お受けしています。内容に応じて、パナ・ケミカルの担当者や各分野の専門家がお答え致します。
さて、今回、「積層フィルムはなぜマテリアルリサイクルしにくいのか?」との御質問を頂きましたので、技術を担当させて頂いています私がお答えさせて頂きます。
実はこの積層フィルムのリサイクルに関する質問、いろんな所から頂く事が非常に多いんです。良い機会なので、”化学の視点”を踏まえ、まとめてガッツリとお答えさせて頂きます。
まず、積層フィルムについてですが、これは「二種類以上のフィルムを貼り合わせたフィルム」の事でありまして、フィルムの積層化によりそれぞれの素材の持つ欠点を補い合い、長所を活かし合って物性を向上させています。
我々の身の回りでも様々な用途に使われておりまして、食品包装関係や印刷関係などの広範な分野で使われています。

上の写真からも分かる様に、フィルムの素材はプラスチックに限らず、牛乳パックでは紙が、レトルトパウチではアルミニウム箔なども用いられています。
特にアルミニウム箔は、赤外線などの熱線や光線を遮断・反射し、外部からの熱や光の侵入を防ぐ事が可能であり、食品保存の効果を格段に高めています。
また同様な遮熱・遮光効果を得るものとして、プラスチックフィルムにアルミニウムなどの金属膜を蒸着したフィルムを積層する手法もあります。
金属膜の蒸着は、一般に「物理蒸着法(Physical Vapor Deposition : PVD)」により行います。この方法は蒸発源である金属を加熱して気化させてから、フィルムの表面に吸着させて冷却固化する手法です。
アルミニウム蒸着の場合は、高純度アルミニウム(純度99.99%)を真空下、1400℃程度に加熱することで気化させてフィルム表面に蒸着させます。
ここで積層フィルムの構造の一例として、レトルトカレーなどに使われているパウチの積層構造を見てみましょう。

このパウチは4層構造で、第1層(最も内側の層)には、無延伸ポリプロピレン(CPP : Cast Polypropylene)が使われています。CPPは耐熱性に加え、シール性が高く、内部の食品の漏れを防ぎます。
第2層には、アルミニウム箔が積層され、酸素、水蒸気、光を遮断する事で食品の変質・劣化を防いでいます。
第3層には二軸延伸ポリアミド(OPA)が使われ、これは機械的強度を確保しています。印刷はこの層に施されます。
最外の第4層には、耐熱性や寸法安定性に優れるポリエチレンテレフタレート(PET)が使われています。これは、湯煎により温める際の破損や変形を防ぐためです。
この様に積層フィルムは、使用目的により様々な素材を選択して積層するため、非常に多種の素材から成ります。
積層の方法としては、
(1)ニカワやカゼインなどの水溶性接着剤を基材に塗布して貼り合わせる「ウエットラミネーション」
(2)固体のホットメルト剤を熱で溶融させながら基材に塗布して貼り合わせる「ホットメルトラミネーション」
(3)有機溶剤に溶かした接着剤(ウレタン系が多い)を基材に塗布した後、乾燥により溶剤を除いた所に他のフィルムを圧着して積層する「ドライラミネーション」
の3法がよく知られています。
いずれにせよ、積層フィルム中には、プラスチックの他に、アルミニウムや紙などの他の素材に加え、接着剤が含まれている事がお分かり頂けたと思います。
前置きが長くなりましたが、ここから御質問の内容にお答えします。
積層フィルムのリサイクルが難しい理由としては、以下の4点が挙げられます。順に見て参りましょう。
(1)分別回収と異物除去の難しさ
(2)洗浄後の乾燥の難しさ
(3)再生処理の技術的な障壁
(4)再生品の流通性の悪さ
(1)分別回収と異物除去の難しさ
先に申しました様に積層フィルムは様々なプラスチックが使われているだけで無く、アルミニウムや接着剤、印刷に使われているインク、フィルムに付着した汚れなどの異物も含まれています。
接着剤で貼り付けられている積層フィルムを素材毎にバラバラにするは技術的に非常に難しく、大変な手間が掛かります。但し、マテリアルリサイクルを行うためには、紙やアルミニウムを除去する必要があります。
紙に関しては水に含浸して膨らませ、プラスチックフィルム部分から削り取る方法等が検討されていますが、非常に手間のかかる方法です。
アルミニウム箔やアルミニウム蒸着膜を除くためには、薬剤処理を施す必要があり、これは非常に大きなコスト圧となります。
(2)洗浄後の乾燥の難しさ
回収した積層フィルムを再生工程に回すためには、付着している汚れや接着剤、インクなどを洗浄する必要があります。
洗浄に伴い積層フィルム間の接着剤の一部が洗い流されて、隙間が生じ、ここに水分が取り込まれてしまいます。
この状態で遠心脱水やプレス脱水を施しても、水分を十分取り除く事ができず、熱風乾燥や真空乾燥を施す必要が生じます。これも大きなコスト圧となります。
(3)再生処理の技術的なハードル
これまでお話しました様に、コストや手間を勘案すれば、現実的には積層したままの状態で再生処理をする事になります。
積層フィルムを構成する素材は様々なものが使われていますが、これを“このまま”まとめて溶融してペレット化するとエライ事になります。再生品の機械的物性が著しく低下してしまうのです。
確かに複数のプラスチックを混ぜて材料とする「ポリマーブレンド」や「ポリマーアロイ」という技術をプラスチックのリサイクルに応用するというのは古くから試みられてきました。
しかるにプラスチックを“混ぜ合わせる”というのは技術的に非常に難しいのです。
例えば、積層フィルムによく使われているポリエチレンとポリプロピレンの分子構造はよく似ているのですが、これらを混ぜ合わせても上手く混ざりません。
通常、融点が異なるプラスチックをブレンドしてペレットに成形すると、ミクロレベルでは層状に分離してしまいます。
融点の低い側のプラスチックが先に溶融し流動性が増すのですが、融点の高い側のプラスチックはこの時点では溶融せず流動しないため、融点の低いプラスチック同志が先に集まってしまいます。このため、双方のプラスチックは上手く混ざらず、層状に分離してしまうのです。

このペレットを使って成形すると、成形品はミクロレベルで双方のプラスチックがまだらな状態になってしまい、「層間剥離」してクラックやクレーズが発生し易くなり、機械的物性が著しく低下してしまいます。
層間剥離とは、「デラミネーション破壊」ともいい、成形品内部で層状に分離した種類の異なるプラスチックが、外力の影響などで剥離してしまう現象で、成形の現場では「千枚めくれ」とも言われています。
これは大変な事です。成形品の物性が劣化する様な再生材は到底使う事はできません。
そこで、異なるプラスチックを分子レベルで混ざる様にする技術として「相溶化」が検討されてきました。これは異なるプラスチックの双方と相互作用する「相溶剤」を加えて分子レベルでプラスチック同志を混ぜてしまうという方法です。

バージン材では標準的に使われているのですが、再生材ではまだあまり使われていません。というのも、相溶化を行うためには、対象とするプラスチックの種類を構成比が定まっている必要があるからなのです。
ところが、積層フィルムの廃棄物は、様々な樹脂が様々な割合で混入し、また接着剤などの異物の存在するため、相溶化の妨げになる可能性があります。
また相溶化剤は結構高価になるため、コスト的に成り立つかという点も十分に考慮する必要があります。
(4)再生品の流通性の悪さ
仮に頑張って相溶化が上手くいき、積層フィルムの再生原料化に成功したとしても、再生品が流通しなければ、意味がありません。
積層フィルムに使われているプラスチック素材は、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)など汎用材が多く、頑張って再生処理を施しても、コスト的にバージン材や他の再生材との競争力の優位性を獲得する事ができるとは到底思えません。
事実、積層フィルムの廃棄物は、そのまま焼却されたり、RPFの様な燃料に加工されたりする事が多く、再生材として使用する場合も海外でコストカットのための増量用に添加されるくらいしか使い道が無いのが現状です。
当然、バージン材の価格下落が起きれば、競争力の弱い積層フィルム由来の再生材は更に流通性が悪くなる事が想定されます。
以上、お話した内容から、積層フィルムのマテリアルリサイクルが技術的に難しく、再生原料の流通面でも厳しい事がお分かり頂ければ幸いです。
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