【技術コンサルタントの“ひそかな愉しみ”】ちょっと変わったお茶のお話を・・・
- 本堀 雷太

- 12月1日
- 読了時間: 6分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています技術士の本堀です。早いもので年の瀬ですね。
さて、プラスチックのリサイクルを考える場合、中国や香港、台湾という“華僑文化圏”を外す事はできません。
かつて中国は急速な成長に伴って世界中のプラスチック廃棄物を飲み込み続けてリサイクルを担ってきました。
国門利剣の実施に伴い中国へのプラスチック廃棄物輸出の道は途絶えましたが、東南アジアの中華経済圏でのプラスチックリサクルは依然として重要な役割を担っており、この地に住まう華人の方々との交流はプラスチックリサイクルビジネスを営む上で避ける事が出来ない重要な課題です。
未来を見据えて共に歩むためには、「互いの文化」というものを深く知る事が非常に重要です。
我々日本人と華人の共通文化の一つに“お茶”が存在します。
中国に端を発する茶文化は我が国に伝わり、茶道を始めとする独自の進化を遂げました。
事実、私が中国や香港、台湾へ技術指導でお邪魔させて頂いた際には、様々なお茶に出会い、中華民族が長年にわたって培ってきた「茶の文化」を目の当たりにしました。
皆様の中にも中国や香港、台湾などへお出掛けになった折りに、お茶を土産に購入される事があるのではないでしょうか?
お茶はかさばるものの、腐る事も無く、日持ちも良いのでお土産にはうってつけですね。
その一方、中国茶、台湾茶は悠久の歴史の中で作り上げた至高の逸品という側面もあり、品評会などで入賞した茶葉には、とてつもない値段がつくこともあります。
また、お茶は健康飲料としても重要で、リラックス効果や痩身効果、抗菌作用など優れた効果を示す事も近年注目されています。
私も中国や台湾へお邪魔させて頂いた際には、お茶屋さんや茶商、茶農家を訪ねて、お茶を買い求めるのですが、時に珍しく、また面白いお茶を見つける事もあります。
そこで、今回は気分転換がてら、私が出会った“ちょっと変わったお茶“を紹介したいと思います。
(1)お茶の燻製―正山小種―
上海のお茶屋さんで購入したもので、紅茶の一種です。「正山小種」と書いて「ラプサンスーチョン」と読み、福建省の武夷山で作られています。「正山」とは「武夷山」の別称で、「小種」とは「茶の樹種」との事です。
この紅茶は、飲んでみると病院で感じるクレゾールの様な薬臭い匂いします。この香りは「クレオソート香」と言いまして、普通の紅茶では感じられないものです。
クレオソート香は、茶葉の発酵途中で、松の薪で燻すことで賦香(松香燻煙)されます。松の薪が熱分解する際に発生するフェノール類化合物がクレオソート香の由来となります。
まさに“お茶の燻製”ともいえるものです。好みは分かれると思いますが、私は結構ハマってしまいました。
正山小種は主にイギリスを中心とする欧州向けに輸出され、我が国にはあまり入ってきません。また、松香燻煙せずに香料で着香したものも多いため、お茶屋さんでは試飲して購入するのが良いでしょう。

(2)苦いけど健康に良い―苦丁茶(一葉茶)―
これは福建省の厦門のお茶屋さんで購入した苦丁茶の一種「一葉茶」というもので、海南島産です。
本来、お茶というものは、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキ(学名:Camellia sinensis (L.)O.Kuntze)の葉が原料なのですが、チャノキ以外の葉から作られた茶というものも存在しまして、このようなものを「茶外茶」といいます。
苦丁茶も茶外茶の一種で、飲むとさわやかな苦みを感じます。これは「トリテルペン」とこの配糖体である「サポニン」という物質に由来し、熱さましや解毒、咳止め、去痰などの効果があります。またミネラルも豊富に含まれています。
一葉茶とは、この苦丁茶の一種で、モチノキの仲間の葉をこよりの形にねじり葉巻状に成形したものです。
この一本の茶葉を茶碗に入れて湯を注ぐと、葉がゆっくりと開き、さわやかな香りを感じます。口に含むと、苦みを感じますが、慣れると非常に口当たりの良い味であると思います。

(3)上品な苦丁茶―苦丁茶(青山緑水)―
これは台北の茶商の方から分けてもらったもので、福建省産です。
苦丁茶の一種なのですが、一葉茶とは樹種が異なりイボタノキの仲間で、新芽のみを摘み取ったもので、一葉茶よりも貴重な苦丁茶です。
一葉茶よりも苦みが弱く、飲み干すとかすかな甘みも感じます。眼精疲労などにも効果があり、古くは科挙(中国の官吏登用試験)のため勉学に励む学生が飲んでいたと言われています。
青山緑水の樹種はイボタノキの仲間であるLigustrum robustumですが、この樹種の種苗や種については、中国国外への持ち出しが禁止されています。

(4)不思議な甘さ―羅漢果茶―
下の写真を見て頂くと分かるのですが、明らかに“茶葉”では無く、“果実”です。
これは「羅漢果」というもので、広西チワン族自治区の一部の地域でのみ産出するウリ科の植物です。写真のものは、羅漢果を乾燥させたもので、広州のお茶屋さんで購入しました。
この果実を砕いて鍋で煮出したものを飲むのですが、甘いだけで特にメチャクチャ美味しいというものではありません。
この甘さは、ブドウ糖や果糖といった糖質系甘味成分に加え、非糖質系の甘味成分に由来しています。
特に非糖質系の甘味成分の一つである「モグロシドV」という物質は、甘みが砂糖の300倍程度あり、またヒトの体内で代謝に供される事がないためノンカロリーであるとの特徴を有します。
そのため、糖尿病の患者など、糖質系の甘味料が使用できない方向けの甘味料として注目されています。

(5)虫のウンチのお茶―虫糞茶(虫屎茶、龍珠茶)―
最後に“極め付け”のお茶を紹介します。広州のお茶屋さんで購入した「虫糞茶」です。
このお茶は、特定の植物を食べたガの仲間の幼虫が排出した糞を集めて熟成させたもので、下の写真のものは広西チワン族自治区産のものです。
ガの幼虫の体内で植物の葉が消化される過程で有効成分が濃縮され、また糞中に酵素成分が多く含まれる事から、薬用として有効であると考えられています。
飲んでみた感じは、高級なプーアル茶の様な感じで、いささかかび臭さも感じるのですが、かすかな甘みも感じました。
疲労回復などに効果があるそうです。

お茶は中国から日本に伝えられた偉大な文化です。わが国では主に緑茶が普及し、茶道が確立しました。
しかし、中国や台湾、香港には、日本ではあまり知られていない様な面白いお茶がまだまだ存在しています。
皆様も中国や台湾、香港へお越しになった際に、お茶屋さんを覗いてみるのも良いと思います。
私の出会ったちょっと変わったお茶のお話でした。
