【化学経済】ロシアによるウクライナ侵攻の影響
- 本堀 雷太

- 2022年11月1日
- 読了時間: 7分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。かなり寒くなってきましたね。
それにしても世界情勢は大荒れですね。ようやくコロナ禍が落ち着いてきたなと思ったら、急激な円高が進行するし、原油価格もOPECが減産するなんて言い出して先行きがかなり怪しい感じで、ホント不安だらけですね。
中でも「ウクライナ問題」は、全世界に大きな影響を及ぼしています。
皆様ご存知の通り、2022年2月下旬に突如ロシアがウクライナに侵攻した事は世界に大きな衝撃を与えました。
その後、ロシアはウクライナの首都キーウへのミサイルによる攻撃や包囲網を築くも、西側諸国の支援を受けたウクライナ軍の善戦により、ロシア軍は東部方面に転戦(退却)し、ロシア本土と実効支配下に置いているクリミア半島を繋ぐウクライナ東部地域の統制支配に重点を移しています。
ロシアを表立って支援する国も少なく、イランと北朝鮮ぐらい(北朝鮮の場合は支援したくても出来ないでしょうが・・・)で、頼みの綱の中国も習主席は権力掌握に御執心でつれない様ですね。
これから来年に掛けて”落とし処”を探る動きが活発化するでしょうが、この様な時こそ市場の動きが鋭敏となりますから、我々はこの流れをしっかりと見つめていく必要があります。
そこで今回は、ロシアによるウクライナへの侵攻が与えた影響を資源取引、特に天然ガス相場の動きから眺めてみようと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、今回の天然ガス価格の高騰は原油や石炭の価格にも飛び火しており、プラスチック原料価格にもじわじわと影響を及ぼす可能性がありますので、その動向を知る事は非常に重要です。
まず、下図をご覧下さい。これは、米国、欧州、日本における天然ガス価格の推移を示したものです。

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を皮切りに欧州における天然ガス価格が急騰しています。
そしてこの欧州の急騰に引っ張られる形で、我が国と米国における天然ガス価格も緩やかに上昇しています。
まさに”ウクライナ危機”という非常事態が資源価格に波及した事を如実に表しています。
この欧州における天然ガス価格の急騰は、特にコンチネンタル(大陸欧州)において顕著なのですが、特にドイツやイタリア、そしてハンガリーなどの東欧諸国が大きな影響を受けています。
この傾向は、これらの国における天然ガス調達の多くがロシアからのパイプライン輸送に依存しているからです。
下表をご覧下さい。各国の一次エネルギーの自給率とロシアへの依存度を示します。

ドイツでは天然ガス輸入量の43%、イタリアでは天然ガス輸入量の31%がロシア産で、共に輸入シェア1位となっています。
フランスにおいても天然ガスについてはロシアに多くを依存しており、27%(輸入シェアでみると2位)がロシア産となっています。
またドイツにおいては石油に関してもその輸入量の34%がロシア産で、これも輸入シェア1位となっています。
まさにドイツは一次エネルギーの多くをロシア、それもロシアからのパイプライン輸送に依存している実態がお解り頂けると思います。
ロシアからドイツへは2つの経路の海底パイプラインが敷設されています。「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」です。
ノルドストリームとはドイツ語で「Nord Stream」と記しますが、これは「北の流れ」という意味になります。
事実、ノルドストリーム1はロシア北西部のヴィボルグからフィンランド湾の海底を通り、ドイツ北部のルブミンまで敷設され、天然ガスの輸送が行われています。
ノルドストリーム1は全長約1200kmに及び、世界最長の海底パイプラインです(ちなみに世界第2位の海底パイプラインはノルウェーとイギリスを結ぶ「ランゲルドパイプライン」です)。
ノルドストリーム2については、ロシア北西部のウスチルーガからルブミンまでを結んでいるものの、ロシアがウクライナ国内の親ロシア派が実効支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認した事にドイツが反発し、稼働許可の審査作業を2022年2月に停止したため、現在に至るまで稼働には至っていません。
パイプライン輸送はLNG輸送よりも低コストで即時に大量の取引が可能なのですが、今回の様な国際紛争状況下では輸出国の利害に基づいて供給が一方的に停止されてしまう”政治的なリスク”が紛れも無く存在します。
実際、2022年9月にはノルドストリーム1、ノルドストリーム2の双方で破損が見つかり、ガス漏れが発見されました。
報道ではロシアによる爆破工作と伝えられており、対立する西側諸国との駆け引きに天然ガスが使われていると言えましょう(”人質”ならぬ”ガス質”ですね)。
ロシア産天然ガスのパイプライン輸送に大きく依存しているドイツは代替としてノルウェー産の天然ガスのパイプライン輸送による輸入を増やしていますが、産業用を中心に不足状態が続いています。
これから冬にかけて民生用(熱源など)の需要が増大する中、ドイツは非常に難しい舵取りを強いられる事になるでしょう。
ドイツのパイプライン輸送経由でロシア産天然ガスを輸入していたフランスは、
(1)スペイン経由のパイプラインでアルジェリア産の天然ガスの輸入
(2)北海経由のパイプライン輸送によるノルウェー産天然ガスの輸入
(3)欧州最大のガス田を有するオランダからのパイプライン輸送による天然ガスの輸入
に調達先を切り替えて対応しています。
いずれにせよ、コンチネンタルにおいては天然ガス供給が逼迫している事は間違いありませんし、当座は欧州における天然ガス価格が下落する可能性は低いと考えるべきでしょう。
他方、英国においては少し状況が異なりまして、ロシア産天然ガスの輸入も行われてはいるのですが、自国領内の北海油田でのガス採掘や同じく北海に多大なガス田を持つノルウェーからパイプライン輸送により天然ガスを調達しています。
また北海でのガス採掘量が減少傾向にある事を受け、2005年よりLNG輸入も再開しており、カタールを始めとする中東・アジア地域からも天然ガスを調達しています。
更にロシアとの対立が先鋭化すると、米国からのLNG輸入量も増やしています。
この”天然ガスの調達先の多様化”こそが、結果的にロシア産天然ガスの輸入量減少をカバーしている事になるのです。
この「安定調達戦略の違い」こそが、ロシアのウクライナ侵攻に対する「外交的なスタンスの違い」として如実に表れています。
「融和路線を模索するフランス」、「米国と強調し徹底抗戦の構えの英国」、「煮え切らないドイツ」、天然ガスの調達戦略でこんなにもスタンスが変わるんですね。
国の安全保障における資源外交の重要性が伺えます。
さて、我が国についてはどんな感じなのでしょうか?
我が国は欧州の国々とは異なり、天然ガスの調達は「長期契約に基づくLNG輸入」となっています。
島国であり、周りが敵だらけ(?)の我が国としては、ロシアからの海底パイプラインを敷設すること自体大きな安全保障上の大きなリスクに成りかねません。
そのため、”あえて”パイプライン輸送に比べて高コストのLNG輸入を選択しているのですが、少しでも価格変更の影響を小さくし、安定に調達する事を可能とするため、通常は20年程度の長期の契約を締結しています。
しかも今回のロシアのウクライナ侵攻に関して日本政府は、ロシアへの経済制裁を実施するものの、サハリン2への権益を守るために、商社による新設されたロシア企業の運営会社の出資(株保有)を認めています。
連日の報道を見るに、つまらん評論家や有識者気取りの芸能人どもがグチャグチャ文句ばかり言っていますが、私は今回の日本政府の選択は、キチッと先を見据えて”実を採った”巧みな資源外交を官民一体となって展開していると思います。
ドイツ、特にメルケル政権が犯した過剰なまでのロシアへの一次エネルギー依存に比べ、我が国は調達先の多様化による供給の安定と持続性を選択したのです。
貧資源国であり”建前上”軍事力が行使出来ない我が国においては、官民を通じた地道な外交戦略により生き残りを図ってきました。
今後、ロシアのみならず独裁化が進む中国によってもアジア地域の社会情勢は不安定化していくでしょうが、我々はこの様な変化を冷静に見つめ、生き残るための道筋を見つけ出す努力を続けていくべきではないでしょうか?
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