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【Q&A】フィルム素材構成の表記法

パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。桜咲いていますね。春爛漫です

 

さて、この会員ページでは、会員の皆様からのご質問を随時お受けしています。内容に応じて、パナ・ケミカルの担当者や各分野の専門家がお答え致します。

 

今回は成形加工業のお客様の従業員の方から、「プラスチックの積層フィルムの素材構成の表記方法について教えて欲しい」とのご質問を頂きました。

 

プラスチックフィルムはその用いられる素材により様々な物性や機能を発現させる事ができますが、更に2種類以上のフィルムを貼り合わせる、つまり「積層」する事でより幅広い性能を発現する事が可能となります。

 

この様に積層されたフィルムの事を「積層フィルム」と呼びます。

 

フィルムの積層化によりそれぞれの素材の持つ欠点を補い合い、長所を活かし合って物性を向上させているのです。

 

我々の身の回りでも様々な用途に使われておりまして、食品包装関係や印刷関係などの広範な分野で使われています。

 

例えば、皆様も御存知のレトルトカレーなどに用いられている「レトルトパウチ」は積層フィルムの代表例です。

 



 

このパウチは4層構造で、第1層(最も内側の層)には、無延伸ポリプロピレン(CPP : Cast Polypropylene)が使われています。CPPは耐熱性に加え、シール性が高く、内部の食品の漏れを防ぎます。

 

第2層には、アルミニウム箔が積層され、酸素、水蒸気、光を遮断する事で食品の変質・劣化を防いでいます。

 

第3層には二軸延伸ポリアミド(OPA)が使われ、これは機械的強度を確保しています。印刷はこの層に施されます。

 

最外の第4層には、耐熱性や寸法安定性に優れるポリエチレンテレフタレート(PET)が使われています。これは、湯煎により温める際の破損や変形を防ぐためです。

 

この様に積層フィルムは、使用目的により様々な素材を選択して積層するため、非常に多種の素材から成ります。

 

食品包装以外の分野でも積層フィルムは幅広く利用されています。

 

皆様も日頃お世話になっているスマホやタブレットの保護フィルムも保護層や反射防止層、粘着層などのフィルムが積層化された構造をしています。

 



 

この様に我々の生活に馴染み深い積層フィルムなのですが、その素材構成により発現する物性や機能が大きく異なるため、使用に際しては素材の構成をよく把握する必要があります。

 

そのため、積層フィルムの素材構成については“表記法”が定められているのですが、意外にこの方法について具体的に記された教科書というものがなかなか見当たりません。

 

今回ご質問頂いた方も色々な文献を調べたそうなのですが、良く分からなかったらしく、当方へお問い合わせ頂いた次第です。

 

厳密には色々なルールがあるのですが、基本は以下の2点です。

 

(1)フィルムの外側から内側の順に素材名を記載する

(2)素材と素材の間は、「/」もしくは「//」で区切る

 



 

(1)のルールに従えば、上図に示したフィルム断面の様に外側からポリエチレンテレフタレート(PET)、アルミニウム箔(Al)、低密度ポリエチレン(LDPE)の順に積層されているフィルムの場合、「PET / Al / LDPE」と表記する事になります。

 

(2)について、「/」と「//」は一体何が異なるかと言いますと、「積層の方法」が異なります。

 

フィルムを積層化する方法には様々なものがあるのですが、大きく「押出ラミネーション法」と「ドライラミネーション法」に分けられます。

 

押出ラミネーション法は、ポリエチレンなどを高温の溶融状態でダイ(口金)より押し出し、これを接着材の役割を担わせてフィルム同志を積層する方法です。

 

ドライラミネーション法は「接着剤ラミネーション」とも呼ばれる方法で、フィルム表面に溶剤に溶かした接着剤を塗布し、溶剤を揮散させながらフィルム同志を積層する方法です。

 

一般にドライラミネーションにより積層されたフィルムの方が、押出ラミネーションにより積層されたフィルムよりも透明度が高いのですが、溶剤が残存する可能性もあります。

 

参考にドライラミネーションで積層したスナック菓子用のフィルムの断面を顕微鏡で観察したものを以下に示します。

 



 

最も外側に強度や寸法安定性に優れるPET、その内側に遮光性や酸素遮断性に優れるAl箔、そしてONY(二軸延伸ナイロン)、未延伸ポリプロピレン(CPP)の順に積層されています。

 

ONYとOPPの間には接着剤が塗布された層があり、これはドライラミネーションにより積層された事が分かります。

 

先に示したフィルム素材の構成に関する表示法に従えば、「PET / Al / ONY // CPP」という事になります。

 

積層フィルムは多彩な物性や機能を発揮する事ができる素晴らしい素材です。

 

しかし、その構成素材の多様性からマテリアルリサイクルは技術的に非常に難しく、その多く多くは焼却処理されています。

 

この点は“玉に瑕”ですが、今後も成長著しい分野です。

 

是非、今回お話しさせて頂きました積層フィルムの素材構成に関する表記法の基本を頭の片隅にでも留めておいて頂けましたら有難いです。

 

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