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【化学経済】プラスチック製造における重要な中間体「ベンゼン」について“まるっと”解説します!

パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。私の事務所の庭ではクロモジやジンチョウゲが花を咲かせ、春の訪れを感じています。

 

しかし、世界に目を向けると、紛争や異常気象などの影響で情勢は混沌を極め、経済の先行きも大変不安な状態にあります。

 

プラスチックの世界にも、今後様々な影響が顕れ、皆様の事業にも影響を及ぼす可能性があります。

 

そのため、「良質な情報をいち早く入手し、十分に理解した上で、適切な判断を早急に下す」という一連の流れが非常に重要となります。

 

この会員ページでは、会員の皆様に向けて、様々な市況情報を提供させて頂いていますが、生データだけではなく、プラスチックに関する化成品の商品知識や市況の眺め方のポイントも解説させて頂いています。

 

今回は、ポリスチレン系のプラスチックや各種のエンジニアリングプラスチックの出発原料として重要な「ベンゼン」という物質についてお話させて頂きます。

 

ベンゼンといいますと、六角形の亀の甲羅の様な形をした分子であります。化学が苦手な方は、この構造式を見ただけで拒絶反応を起こしますが、プラスチックの原料として非常に重要な物質です。

 



 

ちなみにベンゼン分子の六角形構造は一般社団法人資源プラ協会のロゴマークのモチーフでもあります。意外でしょ。

 

通常、ベンゼンは原油や石炭から製造されますが、プロセス的にはベンゼンのみではなく、トルエンやキシレンが混ざった状態で産出されます。これらをまとめて、それぞれの頭文字を取り出して「BTX成分」と呼びます。

 

なお、BTX成分の様に、ベンゼン環を含む化合物を専門的には、「芳香族化合物」と呼びます。

 



 

BTX成分は産業上非常に有用な物質であり、特にベンゼンからはポリスチレン(PS)やポリカーボネート(PC)などの汎用プラスチックが生産されています。

 

2022年のベンゼンの用途別需要を見てみますと、ポリスチレンの原料であるスチレンモノマーが最も多く、次いでフェノール樹脂の原料であるフェノールが続いています

 



 

面白い所では、ポリアミド66(PA66)やポリアミド6(PA6)もベンゼンを出発原料として製造されます。

 

化学に詳しい方は、「ポリアミド66やポリアミド6には分子中にベンゼン環なんか無いのに、どの様にして作っているの?」と思われるかもしれません。

 

実は、下のスキームに示します様に、ベンゼン環を水素添加してから環を開裂させたり、Beckmann転移という反応を利用して環を拡張させたりするなどしてポリアミドへ導いています。

 



 

またベンゼンと共に製造されるキシレンは、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステルの原料としても重要です。

 

つまり、BTX成分のベンゼンやキシレンは、プラスチックのみならず、ポリアミドやポリエステルを用いた「繊維の原料」としても重要である事がお分かり頂けると思います。

 

さて、ベンゼンの製造法ですが、(1)原油中の軽質ナフサのクラッキング(熱分解)、(2)原油中の重質ナフサの接触改質、(3)石炭の乾留の3つの方法で行われています。

 



 

ベンゼンの大部分は、原油由来の軽質ナフサと重質ナフサから製造されているため、ベンゼンの価格は、原油価格(ナフサ価格)にリンクする傾向にあります。

 

そこで、下図に最近のアジア市場におけるベンゼンの契約価格(Asian Contract Price : ACP)の推移を輸入ナフサの価格推移と合わせて下図に示します。

 



 

概ね輸入ナフサ価格にリンクしていますね。

 

一般にベンゼンの契約価格は、原油の動向に加え、大口需要のあるスチレンモノマーの動向を基に決定されます。

 

したがって、ベンゼンとスチレンモノマーと原油(ナフサ)の動向を見比べれば、ポリスチレン(PS)の動向も見えて来る事になります。

 

この様に、プラスチックの中間原料の需給動向を見る事で、プラスチックの需給動向の一端を推し量る事も可能となります。

 

さて、最後にBTX成分の製造における“需給調整法”を紹介しておきたいと思います。

 

原油、石炭いずれを原料とした場合でも、BTX成分は混合物として産出されます。

 

この混合物から各々の成分を分離していくのですが、この中でトルエンはベンゼンやキシレンに変換する事が可能です。

 

トルエンに水素を作用させる事でベンゼンとメタンを生み出す「脱アルキル化反応」、2分子のトルエンを反応させてベンゼンとキシレンに変換する「不均化反応」を行う事で、ベンゼンやキシレンの生産量を増やす事ができます

 

ベンゼンやキシレンの需要が増加した場合は、トルエンを変換することでこの需要に対応している訳です。

 



 

プラスチックの需給を推し量る上で、中間原料や出発原料の需給を掴む事は非常に重要です。

 

化学式や構造式が出てきて化学が苦手な方にはつらいかもしれませんが、非常に重要な事ですのでよく理解しておいて頂きたいポイントです。何卒、御理解の程を。

 

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