【技術解説】LDPEとLLDPEって“ナニ”が違うの?
- 本堀 雷太
- 2024年1月1日
- 読了時間: 5分
明けましておめでとうございます。
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。
今年もパナ・ケミカルの皆様と共に会員の皆様のお力となるべく頑張って参りますので、宜しくお願い致します。
さて、年明け1本目の記事は、「技術解説」としてポリエチレン(PE)に関するお話しを一つ取り上げます。
近年、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)の生産量が増大し、フィルムを中心に用途も拡大しています。皆様の事業所などで使われているストレッチフィルムや食品包装用のフィルムが良い例ですね。

LLDPEのリサイクルも積極的に行われ、圧縮などの減容処理が中間処理として施されているケースが多いと思います。

ところで、先日、お客様の所へお邪魔した際に、「LDPEとLLDPEって結局、何がどう違うの?」という御質問を頂きました。
LDPEとLLDPEについては、見た目がよく似ている事から「軟質ポリエチレン(軟質PE)」と総称しているケースも見られますが、“化学の眼”で見ますと少し異なるんです。
そこで、今回はLDPEとLLDPE、そしてHDPEについて“何が違うのか?”という点を解説させて頂きます。
皆様御承知の様に、LDPEもLLDPEもHDPEもポリエチレン(PE)の仲間ですが、密度(Density)が異なりまして、これが略称の由来となっています。
低密度(Low Density)のポリエチレン(PE)だから“LDPE”、高密度(High Density)のポリエチレン(PE)だからHDPEとなる訳です。
では、LLDPEの場合はどうなのでしょうか?
低密度ポリエチレン(LDPE)という名称の前に更にもう一つ“L”が入っています。この“L”はLinear(直鎖)に由来し、“直鎖状の分子構造”である事を意味しています。
実は、同じポリエチレンでも、重合法により得られるポリエチレンの分子構造が異なり、それに伴って密度が異なります。
エチレンの重合プロセスは、重合時の圧力により、低圧法、中圧法、高圧法に大きく分類されます。そして、得られるポリエチレンの分子構造も異なります。

低圧法や中圧法では、遷移金属触媒を用い、「配位アニオン重合」を行う事でポリエチレンを得る事ができます。
このポリエチレン分子は直鎖状で、分子間のパッキング性が良いために分子が整列し易く、その結果として結晶化し易い傾向にあります。
キッチリとギッチリ分子が集まって整列するので、当然密度は高くなります。これが、高密度ポリエチレン(HDPE)です。
この重合系は、気相、液相のいずれの系でも行う事ができますが、キーとなるのは「触媒」です。
良く知られている触媒としては、Ziegler触媒、Phillips触媒、Kaminsky触媒(メタロセン触媒)が挙げられます。

他方、高圧法では、1000~4000気圧の高圧条件下で酸素や過酸化物を重合開始剤とし、バルク状態でラジカル重合を進めます。この反応系は最も古い形のエチレン重合系であり、現在も活躍しています。
この方法では、副反応(連鎖移動反応)が多く、得られるポリエチレンの分子構造は長鎖の枝分かれ(長鎖分岐)が多くなります。
そのため、ポリエチレン分子のパッキングが悪く、整列しにくいため、結晶化が妨げられます。
ポリエチレン分子間が“スカスカの状態”なので、当然密度も低下する事になります。これが、低密度ポリエチレン(LDPE)です。

LDPEは結晶化度が低いため、透明で柔軟ですが、剛性が低いのが玉にキズです。
また、耐水性には優れるものの、結晶化度が低いため、有機溶剤に対しては膨潤やクラックの発生が見られます。この結晶化度の低さは、耐熱性や耐候性の面でも不安要素となります。
更に、高圧法は設備投資が必要である事に加え、ランニングコストも高くつきます。
そこで、低圧法や中圧法で低密度のポリエチレンを作る事ができないか検討が進められてきました。
先にも申しましたLDPEの例を鑑みれば、ポリエチレンの密度を下げるためには、分岐構造を導入してポリエチレン分子同士のパッキングを妨げれば良い訳です。

しかし、低圧法や中圧法では連鎖移動が起こりにくく、分岐構造はあまり生じません。
そこで、モノマーとして、エチレンと共にα-オレフィンを共重合することで、“短い分岐構造を導入する”という手法が採られました。

この手法では、α-オレフィンの種類(アルキル鎖の長さ)と導入量(共重合比)を調整すれば、分子間のパッキングの程度を制御することができ、密度を下げたまま、ある程度結晶化を進める事が可能となります。
そのため、LLDPEはLDPEよりも強度や耐熱性、耐候性などの面で優れると共に、HDPEには無い透明性や柔軟性を併せ持つ事になります。
したがって、「LDPEはホモポリマー(単独重合体)、LLDPEはコポリマー(共重合体)」という点が基本的な違いとして挙げられる訳です。
そしてLDPEとLLDPEの物性の基本的な違いですが、LLDPEの方が結晶性が高くなる事から、融点が高く、引張強度や耐衝撃性などの機械的物性に優れます。
ただし、LLDPEの方がLDPEよりも溶融粘度が高く、押出成形時に大きな動力を必要とします。
また同じ程度の分子量であれば、LLDPEの方がLDPEよりも溶融弾性率が小さいため、インフレーション成形によるフィルム製造においては安定性が悪くなる事もあります。
この粘性や弾性の違いは、「ポリマー分子内の分岐構造」の違いに由来します。
さて、このLLDPEですが、共重合させるα-オレフィン(コモノマー)の種類と量により以下の3つのタイプに分類されます。

LLDPEの製造ですが、エチレンとα-オレフィンをモノマーとし、HDPEと同じくZiegler触媒に代表される遷移金属触媒を用いて、気相や液相における配位アニオン重合により行われます。
特に最近は、ジルコニウム原子をシクロペンタジエンで挟んだいわゆる「メタロセン」と助触媒(担体)であるメチルアルモキサン(MAO)から成るKaminsky触媒(メタロセン触媒)を用いることで、分子量が揃っている(=分子量分布が狭い)LLDPEが合成される様になってきました。

このメタロセンLLDPEは従来のZiegler触媒により合成したLLDPEに比べ、引張強さや耐衝撃性、透明性等に優れ、成形されたシートのブロッキングが少ないなど多くの物性面でのメリットがあります。
LDPEとLLDPE、見た目も用途も似ているのですが、“化学の眼”で見てみますとその違いが見えてきますネ。
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