【技術解説】「原単位」から見る原料調達コスト低下の波及効果
- 本堀 雷太

- 2025年5月1日
- 読了時間: 6分
更新日:2025年6月13日
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。
近年、プラスチックの出発原料の多様化により、プラスチック原料の相場が大きく影響を受けています。
例えば、北米地域における「シェールオイル」の商業生産の拡大は、世界的に原油の需給バランスを崩し、原油価格を急激に下落させました。これに伴い、プラスチック原料価格が下落した事は皆様御存知の通りです。
かつては、プラスチックの出発原料といいますと、第一に原油が挙げられ、一部に天然ガスや石炭が用いられているという構図でありました。
ところが昨今は、シェールオイルやシェールガス、石油随伴ガス、オイルシェール、石炭、バイオマスと、プラスチックの出発原料が多様化し、各製造プロセス間での熾烈なコスト競争が行われています。
例えば、ポリエチレンについて見てみますと、現在、原油(ナフサ)、天然ガス(シェールガス、石油随伴ガス)、石炭、バイオマスを出発原料として商業生産が行われています。
技術的な面から見た生産コストとしては、天然ガスや石炭から改質によるメタノール生産を経由するプロセスが最も有利で、これに次いで天然ガス中のエタンをクラッキングするプロセス、原油(ナフサ)をクラッキングするプロセスの順となります。

この様にプラスチック生産における出発原料が多様化する状況下では、出発原料(資源)の供給状況と共に、各プロセスの生産コストに注目する必要があります。
例えば、「シェールガスの供給が本格化する事で、天然ガス中に含まれるエタンの調達コストが低下し、これに伴って川下生産品であるエチレンやポリエチレンの価格が下落する」という話、どこかで聞かれたことがあると思います。
実は、一口にシェールガスと言いましても、ガス井により組成は多様でありまして、メタンがほとんどを占めるマーシェラス産の様なシェールガスもあれば、メタンの他にエタンやプロパンなどを含むイーグルフォード産の様なシェールガスもあります。

エタンの価格が下がる仕組みとしては、
(1)シェールガスの増産と共に、副産するエタンの調達コストが低下する。
(2)エタンを含まないシェールガスも含めたシェールガス全体の生産量増加の影響で、シェールガス以外の在来型天然ガスの価格も低下し、これに伴って在来型天然ガスに含まれるエタンの調達コストが低下する。
の2つが考えられます。
いずれにせよ“見た目”としては、「シェールガスの増産により、エタン→エチレン→ポリエチレンと川下製品の価格下落が起こった」という事実が認められることになります。
しかし、この様なプラスチックの出発原料の調達コストの低下が、実際の所、“どの程度の影響”を及ぼすのかを理解する事は、複雑な市況を整理して理解する事が必要であるため、非常に難しいといえます。
そこで、市況とは別の立場として、製造プロセスの成り立ちからプラスチックの出発原料の調達コストの低下がプラスチック原料価格に与える影響を見てみましょう。
今回はその一つの手法として、「原単位」という考え方を紹介したいと思います。
原単位とは、「プラスチック原料やモノマーなどの製品の製造に要する原料の割合」の事です。
当然、「原料の原単位が大きいほど、原料価格の低下により製造コストが低下する」ことになります。
例えば、ポリスチレンについて見てみますと、ポリスチレンはエチレンとベンゼンからモノマーであるスチレンを製造し、これを重合するというプロセスを経て得られます。
このプロセスにおいて、ポリスチレン1トンを製造するためにはエチレンが0.27トン、ベンゼンが0.75トン必要です。このポリスチレン1.00に対する0.27や0.75という原料の“割合”が原単位という事になります。
原単位から見れば、ポリスチレン製造においては、エチレンよりもベンゼンの寄与が大きいと言えます。

このポリスチレンの製造プロセスにおいて、エチレンの出発原料としては原油と天然ガス(シェールガスや石油随伴ガス)、ベンゼンの出発原料としては原油と石炭となります。

先に述べました様に、原単位が大きいほど、原料価格の低下により製造コストが低下するので、現在の原油安状況は、原油から製造される“原単位の大きい”ベンゼンの調達コストの低下に大きく寄与し、ポリスチレンの製造コストを押し下げている事が伺えます。
また現在は、原油由来のエチレンよりも安価な天然ガス由来のエチレンも流通していますが、仮にこれをスチレン製造に供給したとしても、ポリスチレン製造におけるエチレンの原単位は小さいため、天然ガス価格の低下によるエチレン価格の低下の恩恵は小さくなります。
つまり、ポリスチレンの製造においては、原油や石炭に由来するベンゼンの調達が大きな製造コスト決定要因となり、天然ガス価格の影響は比較的小さいと言えます。
故にシェールガスの拡大により、安価なシェールガス由来のエチレンが流通したとしても、ポリスチレン製造への影響は小さいと言える訳です。
では、次にエチレンの低価格化の影響について原単位の立場から考えてみましょう。
昨今、エチレンは最も出発原料が多様化し、特にシェールガスや石油随伴ガス、石炭からは原油(ナフサ)よりも安価なエチレンが製造されています。
この安価なエチレンの上市が、プラスチック製造に与える影響を原単位から考えてみます。
下表に代表的なプラスチックのエチレン原単位を示します。

エチレン原単位が大きいほど、プラスチック製造におけるエチレンの使用量が多いため、エチレンの低価格化が製造コストの低下に寄与する事になります。
ポリ酢酸ビニルやポリ塩化ビニルの原単位は比較的大きいため、エチレンの低価格化の恩恵を大きく受ける事になります。
事実、シェールガス開発が盛んな北米地域では、シェールガス由来のエチレン製造プラントに、ポリ酢酸ビニルやポリ塩化ビニルの製造プラントが併設されている事例が良く見られます。
他方、ポリスチレンやABS、ASといったプラスチックについては、エチレン原単位が小さく、エチレンの使用量が小さいため、エチレン低価格化の恩恵をあまり受ける事が出来ない事になります。
この様に原単位を比較する事で、シェールガスのプラスチック原料生産へのコスト面での影響の程度を簡単に推し量る事が出来る訳です。
市況は相対的かつ複合的な要因で動くため、把握しにくい面があります。
その様な場合には、製造プロセス自体から得られる定量的なデータから情報を組み上げて、市況の動きを当てはめていくという手法も有効であると思います。
今回は「原単位」という視点から、原料調達コストの低下による波及効果の考え方についてお話させて頂きました。
