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【化学経済】 原油相場概観2025

更新日:2025年6月16日

パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。

 

プラスチックを始めとする化学製品の多くは、原油(石油)を出発原料として製造されています。故にプラスチック原料の価格は原油価格とリンクする傾向にあります。原油価格は基本的に需給バランスにより決まりますが、需給動向は社会の情勢が大きく影響します。

 

昨今の世界情勢を眺めてみますと、ロシアによるウクライナ侵攻は長期化し、ガザ地区を始めとする中東地域の紛争は激化し、中国の景気は悪化の一途を辿り、欧州の経済は極端な脱炭素化政策に振り回され混迷を極め、米国では米国第一主義を掲げるトランプ政権が返り咲き経済政策の大転換が予想され、全世界的に経済環境が混沌としている事が伺えます。

 

今回は、原油価格の動向について、各種統計データを紐解きながら、今後の原油需給動向やプラスチック市場への影響を考えてみたいと思います。

 

はじめに一点だけ留意して頂きたいのですが、原油には、「エネルギー資源としての原油」「化学原料としての原油」“2つの顔”があります。エネルギー資源としての原油からは、石油や灯油、軽油、重油といったエネルギー生み出す「石油製品」が製造され、化学原料としての原油からはナフサ(軽質ナフサ、重質ナフサ)といったプラスチックを始めとする「石油化学製品」が製造されます。

 

原油の用途としては、圧倒的にエネルギー資源としての原油に需要がありますので、原油の価格はエネルギー需要に大きく影響され、プラスチックに対する需要は全くといっていいほど影響しません。事実、石油化学工業会の公表では、我が国において2022年にプラスチックの生産に利用された原油の割合は約3%です。

 

故にプラスチック原料の価格は、エネルギー需要に基づく原油価格に“引っ張られている”形でリンクしているという事になります。プラスチック原料の価格は、原油のみならず、プラスチックに対する需要の影響も大きく受ける事を留意してください。

 



 

では、まず最近の世界の原油市場の動向から見てみましょう。下図に原油価格の推移を示します。

 



 

北米地域のマーカー原油であるWTI原油、欧州のマーカー原油である北海ブレント原油、中東―アジア地域のマーカー原油であるドバイ原油、そしてOPEC加盟国の主な原油の価格を加重平均したOPECバスケットを示しましたが、いずれも似た値動きをしています。

 

2018年以降、北米地域でのシェールオイルの増産(シェール2.0)によりWTI原油の価格が他のマーカー原油よりも低い状況でしたが、世界的なコロナ禍の影響で産業が停滞した結果、原油価格はいずれのマーカー原油でも暴落しました。その後、経済活動の回復に伴い原油価格は上昇したのですが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、原油供給が不安定化し、価格は高騰、産油国は増産を進めました。

 

ところが、中国や欧州などの景気が著しく減退し、また欧州諸国による原油からクリーンなエネルギー資源とされる天然ガスへの転換が進む中、原油価格は伸び悩む様になりました。そこで、OPEC加盟国にロシアやマレーシア、ブラジル、アゼルバイジャンなどの非OPEC加盟の産油国を加えた「OPECプラス」の形で協調して減産(協調減産)を進めて原油価格の高値での維持を図りました。

 

しかし、米国に加え、ガイアナ、ブラジル、カナダ、ノルウェーなどの新興産油国が増産を進めており、協調減産の効果は限定的なものとなっています。その結果、現在の相場は“揉み合い”状態のボックス相場の様相を呈しています。

 

そこで主な産油国の生産動向を見てみましょう。下図に米国、サウジアラビア、ロシア、UAE、イラン、メキシコ、ベネズエラ、マレーシアの原油生産量の推移を示しています。

 



 

先に述べた様にロシアによるウクライナ侵攻を契機に米国の産油量は増加しています。これは自国内の需要への対応と同盟国への供給を指向したものであり、経済の安全保障政策の一環です。

 

他方、ロシアは経済制裁の影響で販路が閉ざされ、また原油価格の維持のためOPEC加盟国と協調して減産している結果、産油量は伸び悩み、需要が旺盛なインドや同盟関係にある中国へ“割安”に販売せざる得ない状況に陥っています。資源売却により外貨を獲得する術以外を持ち合わせていないロシアにとっては厳しい状況が続いています。

 

OPEC加盟国のサウジアラビアやUAEは原油価格の維持のため、協調減産を続けていますが、同じOPEC加盟国であるイランは増産しています。これは米国との対立による経済制裁の影響が大きく、中国などへ原油を安値で“叩き売り”する事で外貨獲得を図っている事を示しています。

 

この様に現在の原油相場は、各国の思惑が錯綜し、需要と供給のバランスが崩れ、揉みあい状況が続いている事が分かります。

 

特にOPEC、OPECプラスの協調減産は今後の原油価格の動向を占う上で非常に需要です。そこで下図にOPECプラスの原油生産シェア(占有率)の推移を示します。

 



 

全世界の産油量に占めるOPECプラスの産油量の割合(シェア)は減少傾向にあります。これは先に述べた様に、米国に加え、ガイアナ、ブラジル、カナダ、ノルウェーなどの新興産油国が増産を進めている事に由来しており、OPEC、OPECプラスの原油市場における”影響力”が徐々に低下している事を意味しています。

 

更にOPEC加盟国内部においても、“方向性の違い”が露呈してきており、先に述べたイランの増産の他、UAEがOPEC脱退の可能性をチラつかせています。つまり、OPECやOPECプラスの協調減産の効果が薄れてきていると考えられるのです。

 

さて、話は変わりますが、2025年1月に米国において第2次トランプ政権が発足しました。「関税の上乗せ」を武器に諸外国に圧力を掛けていますが、世界的な経済の混乱を招く事は必至ですね。

 

トランプ大統領はエネルギー非常事態を宣言し、就任演説において、「掘って、掘って、掘りまくれ!(Drill, baby, drill!)」と述べました。これは米国国内において、原油や天然ガスの増産を指示している訳で、シェールオイルやシェールガスの増産、アラスカでの原油・天然ガス開発の活発化、メキシコ湾岸油田での増産を意味しています。

 



 

また、あまり注目されていませんが、カナダからの原油輸入量の増加の可能性も押さえておく必要があります。米国はカナダからの輸入品に25%の関税を果たすと脅していますが、この課税対象から原油が除かれるか否かで、米国の本気度、つまりエネルギーの国内自給と将来的なエネルギー資源の輸出という戦略転換の可能性を伺う事ができます。

 

ではどの程度、アメリカは自国内生産に動いているのか、一つの目安として「リグカウント」の推移を見てみましょう。

 

リグカウントとは油田やガス田の掘削動向を示していまして、具体的には「稼動中の掘削装置の数」の事です。この指標は、アメリカの資源調査会社であるベーカー・ヒューズ社が公表しているもので、リグカウント数が増えれば、近い将来における原油や天然ガスの生産量増加に直結していく訳です。つまり、リグカウントは原油生産能力の先行指標としてとらえる事ができます。下図に米国におけるリグカウントの推移を示します。

 





 

実はトランプ政権の前政権であるバイデン政権下において既にリグカウントは増加しているのです。当初、バイデン政権は環境面への配慮からシェール開発に規制を果たす意向であったのですが、ロシアによるウクライナ侵攻により、原油や天然ガスの供給、特に欧州への供給)が不安定化する事から、原油や天然ガスの増産に転じた経緯があるのです。

 

その後、他の産油国(カナダやノルウェーなど)の増産により、供給不足は緩和したため、リグカウントの伸びは落ち着いているのが現状です。

 

今後、トランプ政権の意向を受け、リグカウントが増加するのか否かが一つのポイントとなります。かつて米国は安全保障上の理由から原油の輸出を禁止していましたが、オバマ政権において輸出を解禁しました。米国が自国内で原油が消費しきれなくなった時、輸出に振り向ける、特に同盟国への“押し売り”を行うのか、非常に興味がありますね。

 

ここまで供給のお話を進めて参りました。各国の供給に関する“思惑”を下図に模式的にまとめて示します。

 





 

さて、続いては原油に対する需要の動きを見てみましょう。OPECが2025年1月に公表した「Monthly Oil Market」によれば、2025年は前年比で1.40%増、2026年は前年比で1.36%増との見通しが記されています。特に、インドとアフリカ諸国の需要の伸びが期待されており、これは著しい経済発展と急激な人口増加などの要因に基づいていると考えられます。

 





 

他方、国際エネルギー機関(IEA)が2024年11月に公表した月報「IEA OIL MARKET REPORT 2024Dec」によれば、2025年の原油市場は、

 

1.OPECプラスの協調減産は続行

2.米国などの非OPECプラス産油国の供給量が増加

3.世界の需要は小幅増

4.中国の需要は伸び悩む

 

ために、供給過剰となるとの見通しを示しています。


この見通しに従えば、現在のボックス相場の状況にある原油価格は緩やかな下落傾向となる可能性を想定しておく必要があります。

 

世界的には原油需要は今後拡大するとの見方が主流でありますが、我が国における原油需要の見通しはどうなのでしょうか?そこで経済産業省石油製品需要想定検討会が公表した「2024~2028年度石油製品需要見通し」から燃料油の需要見通しに関するデータを拾い出してみました。下図にガソリン、軽油、灯油、A重油、ジェット燃料油の需要見通しを示します。

 



 

ガソリン車の保有台数の減少や燃費改善の影響で、ガソリンの需要は減少傾向にあるとの見通しが示されています。また鉱工業や農業・漁業での利用が多いA重油も減少傾向にあります。これは鉱工業においては他の燃料への転換が進む事、農業・水産業においては就業者の減少に伴う耕作面積の減少や出漁機会の減少する事が需要減少の要因として挙げられています。

 

我が国においては、社会や産業の構造変化、景気の減退などの要因がエネルギー資源としての原油の需要の伸びを抑えている事が伺えます。

 

では、化学原料としての原油の需要についてはどの様な見通しなのでしょうか?下図にナフサの需要見通しを示します。

 



 

ナフサはその多くが化学製品に仕向けられるので、化学原料としての原油の動向を知るのに非常に適しています。


このデータはエチレンとBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)の需要動向を基に想定されたものなのですが、緩やかな減少傾向を示しています。これはエチレンの需要動向が大きく関わっていますので、下図に我が国におけるエチレンの生産量と内需量の推移を示します。

 



 

我が国においては、内需の減退や輸出の減少に伴いエチレンの生産量は減少傾向にあります。

 

エチレンの輸出量減少の原因としては、中国産や米国産の安価なエチレンがアジア市場に流入し、価格競争力の劣る我が国のナフサ由来のエチレンが行き場を失った結果であると考えられます。


現在の円安状況にあっても価格競争に負けるという事は、中国や米国産のエチレンが相当安価な形でアジア市場に流入しているかが伺えます。そこで下図に主要国・地域における2011年と2021年のエチレン生産量の比較を示します。

 



 

中国では国内自給化を目指してエチレン生産を増強し続けてきたものの、景気の急速な悪化に伴い国内で消費が奮わず、余剰分が輸出に振り向けられています。米国においてはシェールガスの開発に伴い安価なエチレンの生産が可能となり、これを輸出する動きが活発化しています。

 

双方とも需要が旺盛なターゲットであるアジア市場を目指した結果、コスト競争性に劣る我が国のナフサ由来のエチレンが行き場(輸出先)を失ったという事になります。我が国においては、エチレンの内需も頭打ちであるため、国内需要を満たす事を優先し、経済産業省主導でエチレンセンターの再編が進んでいます。

 



 

やはり今後、第2次トランプ政権の発足により、米国内でのシェール開発が活発化する事を想定する必要が有ります。下図に米国におけるエチレンとプロピレンの生産能力と生産量の推移を示します。

 





 

上図では、エチレンの生産能力と生産量が増加し、プロピレンの生産能力と生産量には大きな変化は見られません。


これはエチレンに関し、シェールガス由来のエチレンの生産が活発化している事を意味しています。他方、プロピレンはシェールガス由来のものは非常に少なく、生産能力と生産量に大きな変化は認められません。

 

先に示した米国におけるリグカウントの推移からも分かります様に、バイデン政権下においてもシェール開発は積極的に進められてきた訳で、このシェール開発の一つの結果が「エチレンの生産能力と生産量の増加」という形で表れたのです。

 

このエチレン生産量の増加は、当然の如くポリエチレンの生産にも影響を及ぼします。下図に米国内でのポリエチレンとポリプロピレンの生産量の推移を示しまが、ポリエチレンの生産量は増加し、ポリプロピレンの生産量に大きな変化は見られません。

 

先に示した米国内でのエチレンとプロピレンの生産動向を踏まえると、ポリエチレン生産量の増加分はシェールガス由来のエチレンによるものであると考えられます。

 



 

このシェールガス由来のエチレンの価格は安価(=生産コストが安い)であるため、当然、このエチレンから生産されるポリエチレンの価格も安価となります。

 

このシェールガス由来のポリエチレンは需要が旺盛なアジア市場にも輸出されており、それは下図に示すポリエチレンの輸出動向においても「輸出量の増加」という形で明確に表れています。

 





 

今後、トランプ政権がシェール開発を更に進めればより多くのエチレンの生産が見込まれ、ポリエチレンに限らずエチレンに由来するプラスチック(ポリ酢酸ビニルやポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートなど)の供給動向にも影響を及ぼすものと考えられます。

 

我が国の化学産業は、製造コストで圧倒的に不利である汎用品の分野では勝負できなくなってきていると言えましょう。

 

今後は高付加価値品(ファインケミカルズやスペシャリティーケミカルズ)の分野が今後の“主戦場”となる訳ですが、この様な“新たな局面”に移行する状況下において、再生プラスチック原料や資源プラを如何にしてブランド化し、「市場での確固たる地位」を確立するかが戦略の基本となります。この先、数年は厳しい戦いが続く事を意識しておく必要がありますね。

 

今、世界はその形を大きく変えようとしています。プラスチックリサイクルを取り巻く経済環境は、この変化の影響を当然の如く受ける事になります。我々は、リサイクル事業の在り方をしっかりと見つめ直し、適切な対応をいち早く施す必要があります。

 

この会員ページは、プラスチックに関する様々な情報のプラットフォームとして、会員の皆様が事業を進めていく上で有用な情報の提供を目的に設立されました。記事の内容などにご不明な点がありましたら、遠慮なくパナ・ケミカルの担当者にお問い合わせ下さい。

 

 

 
 
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