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【化学経済】減退する中国経済の影響を考える

パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。ゴールデンウイーク真っ盛り、行楽シーズンですね。

 

しかし、行楽も結構なのですが、現在の世界情勢に目を向けてみると混沌を極めている状況です。

 

特に我が国では目立って報道されていませんが、中国景気の減退が顕著になって参りました。

 

そこで今回は、「中国景気の減退がプラスチック産業やプラスチックリサクルビジネスにどの様な形で影響を及ぼすのか?」という点について考えてみたいと思います。

 

まず手始めに、中国経済の現状を眺めてみましょう。

 

景気の状況を捉える手っ取り早い方法の一つに、「物価の動向を眺める」というものがあります。

 

モノの価格である物価は、需給のバランスによって形作られるため、物価全体の傾向、つまり「物価指数」の動向を見れば、「需給バランスの状態」を知る事が出来る訳です。物価指数が下がれば消費が減退、つまり景況感が悪化している事が伺えます。

 

そこで、まず中国における最近の「消費者物価指数(CPI)」の推移を見てみましょう。

 


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2022年の後半から「結果」が「予想」を下回る状況が発生し、2023年の6月にCPIの前年同月比が0となりました。その後、前年同月比がマイナスとなり、消費者物価が前年を割り込んでいる、つまり「デフレ傾向」にある事が顕著となってきました。

 

「結果」が「予想」を下回る速度で物価が下落し、デフレが急速に進行している事が伺えます。

 

これは失業率が高まっている若年層の消費、特に自動車やスマホなどの耐久消費財に対する消費の減退が大きく影響していると言われており、中国が“景気の潮目”に至った事を意味しています。

 

次に生産者物価指数(PPI)(日本の「卸売物価指数」に近い指数)の最近の推移を見てみましょう。

 

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こちらは、2022年の後半の時点で前年比がマイナスになっており、物価の下落傾向が顕著に現れています。

 

“モノの生産の現場”では、“川下の消費の現場”よりも早く物価の下落が始まっており、中国国内の産業を取り巻く経済環境が変化していた事が伺えます。

 

様々な要因が考えられますが、その第一に中国と米国の激しい対立が挙げられ、そこに米ドルの金利上昇が大きく影響していると思われます。

 

この米中対立と中国の景気減退の影響は大きく、外資系企業は中国を見限りつつあると言えます。下図をご覧下さい。

 

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これは中国国家外貨管理局が発表した海外からの中国に対する直接投資額の推移をまとめたものなのですが、2023年の対中直接投資は330億ドルの流入超過と前年(2022年)比で82%も減少しています。

 

この事は、中国から外資系企業が撤退、つまり資金の引き上げ(流出)が起きている事を表しています。このままではマズいので、中国政府は景気の刺激のための金融緩和を行っています(どこかの国もそんなことやっていましたよね・・・。未だにやっていますが・・・)。

 

いずれにせよ、中国の景気は潮目を迎えており、プラスチック産業においも、大きく方針の転換が進められています。

 

その一つが、「国内消費から海外輸出への転換」です。

 

2000年以降、中国は急激な経済成長を遂げるため、海外からプラスチック廃棄物を含めたプラスチック原料や製品を輸入し続けてきました。

 

北京オリンピック以降は、米国や周辺諸国との軋轢が増し、関係悪化による経済制裁等のリスクを軽減し、同時に自国経済の持続的発展のためにプラスチック原料の国内自給化を目指すために、過剰ともいえる国内投資を断行してプラスチック原料の国内生産能力を高めて参りました。

 

特にプラスチック廃棄物については、環境汚染対策の観点から輸入ルートをほぼ完全に閉ざした事は皆様御存知であると思います。

 

しかし、現在、景気の潮目が変わり、中国の景気が減退するに至って、過剰に生産され続けてきたプラスチック原料の“行き先”が無くなってしまったのです。

 

そこで、中国は余剰在庫の整理の為にプラスチック原料の輸出を強化しました。下図にポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)の直近10年間の輸出量推移を示します。

 


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いずれも2020年頃から輸出量が増加しており、中国国内でのプラスチック原料の消費量が減退した事が伺えます。

 

紙面の関係で輸出先の内訳は割愛させて頂きますが、

 

1.近年、経済成長が著しいインド、ベトナム、トルコ向けが増加傾向にある

2.ウクライナ侵攻の影響で西側諸国から経済制裁を受けているロシア向けの輸出量が急増している

 

の点は押さえておいて頂きたいです。

 

この中でも、特にポリスチレン(PS)の輸出動向は、非常に興味深いものがありまして、もう少し詳しく見てみましょう。下図にPSの2021~2023年の3年間における輸出量の月次比較を示します。

 

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輸出量は3年間増加し、2023年は2021年の2倍程度まで増加しています。

 

従来、中国においては、PSの需給バランスは、PEやPPに比べてタイトな状況であり、生産能力も大きく増加していませんでした(PE、PPについては過剰生産である上、生産能力も過剰で、プラント稼働率が日本ではありえない程のレベルで低かった・・・)。

 

その様な中で、“純粋に”輸出量が増えているという事は、中国国内におけるPSへの需要が“確実に”減退している事を物語っています。

 

この様に中国国内で“行き先”を失った余剰のプラスチック原料は、輸出に振り向けられる訳なのですが、受け入れる、つまり輸入する側としては“足元を見て”安値での取引を求めますよね。

 

この結果、中国側としては、「余剰在庫をハケさせる事」を優先せざる得なくなり、“叩き売り”される事になるのです。

 

旺盛な需要に支えられた自国内の需要を満たすために、かなり無理をしながらひたすらに生産能力を増強して自給化を目指し、その結果、大量に生産されたプラスチック原料が、まさかの景気減退と共に自国内での“行き先”を失う・・・。

 

なんだか皮肉な話ですね。でも、我々はこれを「所詮、対岸の火事だよね・・・」と眺めている訳には参りません。

 

なぜなら、中国にとっての“叩き売り先”には、当然、地理的に近い我が国も含まれているからです。下図をご覧下さい。

 

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これは財務省の貿易統計を基に、中国からのポリプロピレン(PP)と高密度ポリエチレン(HDPE)の輸入量の推移を示したものです。

 

HDPEの輸入量には大きな変化は見られないものの、PPについては輸入量が増加傾向にある事がお分かり頂けると思います。

 

わずかな変化なのですが、輸出戦略に舵を切った中国のプラスチック原料が徐々に我が国に入ってきている事が分かりますね。

 

現在は為替が円安状況下であるため、この円安が障壁となり、過剰な流入を防いでいる形となっていますが、今後、金融政策の施策次第では円高に振れる可能性も否定できず、その場合は“叩き売り”された中国産プラスチック原料が大量に流入する可能性は否定できません。

 

この中国産プラスチック原料の輸出拡大に向けた“叩き売り”の可能性は、バージン材に限ったものではありません。

 

再生プラスチック原料に関しても、中国国内での需要が減退している可能性は大きく、余剰分が輸出に振り向けられる可能性を十分に想定しておく必要があります。

 

我が国における再生プラスチック原料の成形加工の現場における利用は小規模で、再生プラスチック原料の市場規模自体が小さいのが実情です。

 

これは国内における再生プラスチック原料の流通量自体が少なく、物性が安定した品質を有する再生プラスチック原料を“まとめて”確保する事が難しいため、成形加工業者としても使いづらい側面が有るためです。

 

成形加工の現場では、大量の成形品を“効率良く”生産する事で利益を確保しているため、生産効率を下げる可能性がある「品質(物性)にバラつきがある再生プラスチック原料は使いにくい」、「纏った量の再生プラスチック原料を安定的に調達する事ができるのか不安」という声をよく聞きます。

 

他方、中国の再生プラスチック原料の生産は、我が国に比べ規模が桁外れに大きく、品質のバラつきが少ない再生プラスチック原料を一度に大量に納品する事が可能です。

 

そのため、為替などの条件が満たされれば、プラスチックのリサイクルに対する社会的な関心が高まっている我が国の市場に中国産の“安価”で“品質のバラつきが少ない”再生プラスチック原料が大量に流入する可能性があります。

 

この点は今後の中国市場の動きを適切に眺めながら、読み解いていく必要があります。

 

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今回は、潮目が変わった中国経済を眺めながら、今後、プラスチック産業やプラスチックリサイクルビジネスに及ぼす影響について考えてみました。

 

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