【労働安全衛生】フォークリフトの運転には、当然の事ながら「資格」が必要です!
- 本堀 雷太
- 2024年6月1日
- 読了時間: 8分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。
最近、どこの事業所へお邪魔させて頂いても“人手不足”との声をよく聞きます。
特に中間処理業者を営んでおられるお客様の中には深刻な人手不足に直面し、やむを得ずスキルの低い作業者や外国人労働者を雇い入れているケースもよく見られます。
先日、廃棄物の中間処理業者を営んでおられるお客様の事業所で、フォークリフトによる人身事故が発生しました。
警察の立ち入り調査が行われたのですが、そこで事故を起こした作業者が無免許である事が発覚しまして、大変な事になってしまいました。
労働安全衛生に関する技術指導を請け負わせて頂いている私も急遽呼び出しを受けまして、作業状況の確認や労働安全衛生関係の備付書類のチェックなどを取り急ぎ行ったのですが、どうやらこの作業者は雇入れの面接時にフォークリフトの運転免許を保有していると虚偽の申告をし、事業者側もこれを鵜呑みにして免許証の確認を怠っていた様でした。
これは作業者だけでなく事業者についても“責め”を負わなければならない重大な問題です。
プラスチックリサイクルの現場において、フォークリフトは製品の運搬や積み込みなどの作業で大いに活躍するのですが、この利用に際しては、当然の事ながら「運転者の資格」というものが非常に重要です。

フォークリフトに関する資格制度については、この会員ページをご覧の皆様はご存知の事であるかと思いますが、無免許運転に伴う事故が頻繁に発生していますので、しつこいかもしれませんが、注意喚起のためにあえて取り上げさせて頂きます。
労働安全衛生法においては、フォークリフトの運転者には、最大荷重に応じて、技能講習や特別教育の修了を義務付けています(労働安全衛生法 第61条(就業制限)、第76条(技能講習)、第59条(特別教育))。
なお、技能講習および特別教育を受講することができる資格は、18歳以上であることです。
1.最大荷重1トン以上のフォークリフトを運転する場合
都道府県労働局長登録教習機関で行われる「技能講習(学科と実技)」を履修する必要があります。原則35時間の受講が必要なのですが、特別教育の受講状況や保有する免許、実務経験などにより科目が免除される仕組みになっています。
2.最大荷重1トン未満のフォークリフトを運転する場合
各事業所もしくは都道府県労働局長登録教習機関で行われる「特別教育(学科と技能)」を履修する必要があります。安全衛生特別教育規程に定められた履修時間は12時間ですが、保有免許などにより一部科目が免除されます。
なお、都道府県労働局長登録教習機関で技能講習や特別講習を履修した場合は、受講者に修了証が発行されます。
また事業者で特別教育を行った際には、(1)受講者の氏名、(2)受講の年月日、(3)受講科目、(4)受講時間などの記録を作成し(記録表の形式が多いです)、3年間保存しなければなりません。
これらの技能講習や特別教育を受けて晴れて、フォークリフトの運転が出来るようになります。
ところが、事業者の中には、作業員に無免許でフォークリフトを運転させているケースが良く見られます。また先に申しました様に、作業員の側でも、技能講習を修了したと偽って入社し、フォークリフトを運転して事故を起こし、その折に無免許であることが発覚した例もあります。
作業者が、無免許でフォークリフトを運転して人身事故などを起こした場合、警察や労働基準監督署がすぐさま調査にやってきます。
事業所の稼動状況や作業者の勤務状況・作業内容に加え、事業者による作業者の免許取得の確認の有無、労働者名簿への保有免許記載の有無、特別教育の記録、フォークリフト運転に従事する作業者の名簿の有無、工場内の作業動線管理などが細かく検証されます。
私が過去に携わった事例では、免許証の有無を会社側が記録していなかったり、特別教育の記録が無かったりしたケースが多く見られました。これは“要注意”です。
検証の結果、安全衛生管理上の問題が認められれば、労働基準監督署及び警察により、事業者(多くの場合は、代表者や安全管理責任者)が労働安全衛生法違反の疑いで送検され、必要に応じて起訴されてしまいます。
これは会社にとって非常に大きなマイナスとなります。会社のイメージのダウンのみならず、事業所の操業自体が停滞するため、売上にも影響しますし、取引面でも大きな影響を及ぼします。
したがって、事業者の側としては、第一に行う管理として、作業者が無資格でフォークリフトを運転するという事態を防ぐために、
1.作業者の保有する技能講習修了証や特別講習修了証を確認する(可能ならコピーを取っておく)
2.修了証の番号などを労働者名簿などに併記しておく(修了証のコピーも添付しておくとよい)
3.事業所で特別教育を行った場合は、記録を作成し、3年間保管する
4.事業所でフォークリフトを運転する事が可能な作業者の名簿(運転可能な最大荷重も併記する)を作成する
5.フォークリフトを運転する事が出来る作業者のヘルメットにステッカーなどを貼り付けて、資格保有者である事を確認できるようにする
6.フォークリフト運転作業に従事する時には、作業者に技能講習修了証や特別教育修了証を携帯させる
などの対策を講じる必要があります。
労働基準監督署の立ち入り検査においては、事業者側の記録や工場内のフォークリフト運転動線のチェックに加え、作業者に修了証の提示を求めるケースが多いです。
記録など事業者の側の対策が完璧であっても、作業者の側が修了証を形態していないと折角の努力が水の泡となります。よく作業者の方々にも注意を喚起して頂きたいです。
さて、ここからは御参考にフォークリフト作業における現場での安全管理について簡単にお話します。
まず重要なポイントは、「作業場内の動線管理とフォークリフトの速度管理」です。
激突や接触といった事故の多くは、事業所内の動線が整理されておらず、また制限速度を守らない事に起因する場合が多いです。
特に廃棄物処理施設やプラスチックの再生処理施設では、搬入された廃棄物や再生原料などが雑多に並べられ、歩行者の動線とフォークリフトの動線が混在しているケースが良く見られます。
動線の混在は事故の原因となりますので、事業所内では搬入物品(原料)置場、作業場所(選別作業場、処理作業場)、製品置場を明確にゾーニングし、歩行者とフォークリフトの動線が交わらない様に計画する必要があります。
また、不必要に右左折や旋回のポイントを設けますと、歩行者との接触や荷崩れの可能性が高まりますので、フォークリフトの動線は可能な範囲で“直線”にする事が必要です。
ただ動線を直線化すると、フォークリフトの運転者が速度を上げて運転する可能性もあり、かえって事故の可能性を高めてしまいます。そのため、事業所内で制限速度を設け、標識などで作業者や外部からの搬入車両などに知らせる必要があります。
制限速度の決め方は、(1)一律に決める、(2)場所、車両の種類、荷の有無などの要素でそれぞれ決める方法がありますが、小規模の事業所の場合は一律の方が管理し易いのではないかと思います。
次に重要なポイントは、「フォークリフトへの荷の積載における管理」です。
フォークリフトは、構造や強度により積載できる荷重の限度があります。この限度を超えた積載を行えば、転倒や制動の困難、荷崩れ、車両の破損などの事故が発生します。
フォークリフトへの積載においては、「荷重曲線表」に従って荷の重心の位置により定められている制限荷重を遵守しなければなりません。
特にプラスチックの圧縮品やインゴットなどの減容物は結構な重さになりますので、荷崩れした際に近くにいた人が巻き込まれると大変な事故になります。
荷崩れ防止のため、ストレッチフィルムで梱包したり、場合によってはロープなどで固定したりするなどして、安全な積載を心掛けなければなりません。
なお、荷がフレコンなどの梱包材に入っているため中身が分からない場合には、梱包材の表面に重量を表示する事になっています。特に1t以上の荷の場合は、労働安全衛生法35条の規定により、“見やすく、消滅しない方法”で重量を表示する事が義務づけられています。

最後の重要なポイントですが、「フォークリフトのメンテナンス」です。
労働安全衛生規則151条の21では、法定の検査資格を有する自主検査者により、1年を超えない期間ごとに「特定自主検査」を義務付けています。
また運転前の「始業前点検」や1カ月を超えない範囲での「定期自主検査」も義務付けられています。
特定自主検査については、行政機関に登録した検査業者に委託するケースが多く、検査終了後に「検査結果報告書」と「標章」を受け取ります。
事業者によっては、この「標章」をフォークリフト本体に張り忘れているケースも見られますので、必ず確認して下さい。
始業前点検や定期自主検査については、法令で検査項目が定められていますが、ザックリと書きますと以下の様になります。
1.制動装置と操縦装置の機能
2.荷役装置と油圧装置の機能
3.履帯又は車輪の異常の有無
4.前照灯、後照灯、尾灯、方向指示器及び警報装置(警音器)の機能
これらの検査の結果は、法令上、記録の作成、保存の義務はありませんが、可能ならば作業日報などに合わせて一定期間保存しておくことが望ましいと思います。
皆様のお仕事を支えるフォークリフト、法令に則って上手に安全に使いたいですね。
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