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【技術解説】
ポストコンシューマー品と
プレコンシューマー品における
処理の意義の違い

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2021年2月19日

改正バーゼル条約が施行されて2ヶ月弱が経ちました。

当初から予想されていた様に輸出の現場では混乱が生じており、手続きが滞る事態が発生しています。

この会員ページでも度々取り上げられている品質に優れる「資源プラ」に関しては、通関上特に問題無く流通しているのですが、品質面で劣るバーゼル条約の規制対象になるかならないかのボーダーライン上の廃プラスチックに関しては、環境省も「保留」という形にしておいて物流を事実上差し止めている事例も見られます。

やはりこれからの国際的なプラスチックリサイクルは、処理物の品質を高めていく事が戦略的な必須要件となる事は間違いないと言えます。

しかるに「品質を高めるための処理」とはどの様なものなのでしょうか?

今回は廃プラスチックの排出形態である「ポストコンシューマー品」と「プレコンシューマー品」の立場からこの点を考えてみたいと思います。

プラスチックのライフサイクルをざっと見てみますと、原油や天然ガス、石炭といった「化石資源」を出発原料とするものと、「バイオマス」を出発原料とするものがありますが、いずれのルートもその“役割”が終われば廃棄されるという点においては違いがありません。

問題は“廃棄のされ方”でありまして、まずは廃プラスチックの“廃棄のタイミング”の違いによるマテリアルリサイクルのルートの違いについて見てみましょう。

ほとんどのプラスチックの製造においては、化石資源やバイオマスからモノマー(単量体)が製造され、これ重合する事でポリマー(重合体)が製造されます。

このポリマーに添加剤などを加えたり、アロイ化したり、化学改質したりする事で、成形材料である「プラスチック原料」が生まれる訳です。

このプラスチック原料を成形する事で「プラスチック成形品」が製造され、我々の生活に広く用いられています。

そして役割を果たしたプラスチック製品は廃棄され、“廃棄物”として処理・処分されます。

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この廃棄物である廃プラスチックは、回収され、そのまま使うことが出来るものはリユース(再使用)され、それ以外のものは、汚れの程度などの品質に応じて、マテリアルリサイクルやサーマルリカバリーに供されます。

一部のプラスチックについては、化学原料や燃料に改質されるケミカルリサイクルに供されています。

いずれにせよ、“消費者による使用”を経る事でプラスチック製品としての役割を終えてから回収され、品質的に優れるものはマテリアルリサイクルに回されるというルートです。

この様に“消費者による使用”を経てから、マテリアルリサイクルに供された材料の事を「ポストコンシューマー品」といいます。読んで字の如く“消費後の品”という意味です。

ポストコンシューマー品としてよく見掛けるものには、使用後の食品包装や流通用の包装資材が挙げられます。

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例えば、PETボトルやボトルキャップは各々回収され、マテリアルリサイクルに供されている事は皆様御存じの事だと思います。

ポストコンシューマー材料には、PETボトルの様な廃棄物処理法上の一般廃棄物に該当するものだけでなく、産業廃棄物に相当するものも存在します。

例えば、卸売市場で発生する発泡スチロール(EPS)製の魚箱や、流通の現場で廃棄される使用済みの包装資材などは産業廃棄物に該当します。

いずれにせよ、“消費者によって使用された品”が廃棄された場合に「ポストコンシューマー品」に該当するという事になります。

他方、プラスチック原料の製造過程や成形過程において発生するスプルーやランナー、パージに用いられた樹脂、捨て打ち品、不良品なども廃棄物となります。

これらは“消費者による使用”を経ずにマテリアルリサイクルに供された材料であり、「プレコンシューマー品」といいます。読んで字の如く“消費前の品”という意味です。

これらの廃プラスチックは、ポストコンシューマー材料と異なり、廃棄物処理法上は産業廃棄物に該当します。

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この様に一口に”廃プラスチック”といってもその排出の履歴により様々な性状を有していると言えます。

特にプレコンシューマー品とポストコンシューマー品では、排出時に混入している他素材や異物・汚れといったマテリアルリサイクルの妨げとなる要因の割合がかなり違います。

プレコンシューマー品は成形端材やオフグレード品などが主であるため、排出源に関する情報を比較的入手し易く、また製造ラインに由来する単一素材が排出される事が多いという特徴を有しています。

他方、ポストコンシューマー品については、一旦消費者の使用を経ているため、汚れの付着や他素材などの異物の混入が多く、また多くの場合、その排出源に関する情報は少ない事が多いです。

しかるに一部のポストコンシューマー品に関しては、「単一の素材」が「大量」に排出されているケースも存在しており、この様な場合は排出源の情報を得やすく、異物や汚れの管理を行い易いため、マテリアルリサイクルを有利に進める事が可能となります。

例えば、卸売市場で発生する発泡スチロール(EPS)製魚箱や物流の現場で活躍しているプラスチックパレットなどは、一ヶ所で大量に発生するためにオンサイトでの処理が可能で、”マテリアルリサイクルの優等生”として広く世間に認知されています。

この様にポストコンシューマー品においても、「単一素材が大量に発生する」場合においては、マテリアルリサイクルに適した条件を有していると言えます。

つまり、ポストコンシューマー品においては、(1)単一素材が大量に発生するケースと(2)複数の素材が混合した状態で発生するケースがある事になります。

そのため、廃プラスチックを一括りに同じ土俵上で取り扱う事は土台無理な話であると思います。

私は、

(1)プレコンシューマー品
(2)ポストコンシューマー品(単一素材が大量に発生)
(3)ポストコンシューマー品(複数素材が混合した状態で発生)

の3つのケースを分けて、それぞれの形態に合わせた処理や流通の仕組みを構築する事がマテリアルリサイクルの成功の鍵であると考えています。

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せっかく粉砕などの手間を掛けても、これでは元も子もないですよね。

やはり可能であるならば、専門商社へ販売して対価を得た方が有利なケースが多いと思います。この場合も、素材の分別をしっかりと行い、適切な梱包を施した荷姿で取引に供すれば十分です。

なまじ粉砕などを施せば、チリなどの異物の混入により「素材の単一性」が却って失われる事に加え、粉砕に伴ってメカノケミカルな作用により処理物の物性も劣化する恐れがあります。

プレコンシューマー品に関しては、余計な中間処理を施す事は却ってマテリアルリサイクルの妨げになってしまう可能性があり、素材の単一性が確保できているならば排出時の状態で再生処理工程に供した方が高品質の再生プラスチック原料を製造する事が可能です。

他方、ポストコンシューマー品に関しては、前処理、中間処理が大きな意味を持ってきます。

ポストコンシューマー品で単一の素材が大量に発生する場合でも、一旦消費に供されている以上は、多少の他素材や異物・汚れの混入は避けられません。

そのため”ヒトの力”による他素材や異物の識別や除去、汚れの洗浄といった前処理や中間処理が必須となります。そしてこの”ヒトの力”を補完するために適切な処理装置などの”技術”を用いる事になります。

つまり、「素材の単一性」を確保するための手段として、「適切な処理」を施す必要があるのです。

この適切な処理は、処理に携わる「ヒトの力(能力)」とこれを支える「処理装置(技術)」に支えられています。

従って、ポストコンシューマー品で単一の素材が大量に発生する場合には、「素材の単一性」を確保するために「ヒトの能力」と「処理装置の能力」のベストミックスを目指した「適切な処理」を施す必要があります。

ところが、同じポストコンシューマー品でも複数素材の混合物が排出された場合は事情が大きく異なります。

複数素材の混合物をマテリアルリサイクルするためには、大変な手間を掛けて素材を識別し、素材毎に分別し、異物や汚れを除去する必要があります。この作業はヒトの力だけでは限界があるため、処理装置の力に大きく依存する必要があります。

本質的には、マテリアルリサイクルを行う事よりも廃棄物を適切に処理する事が主な目的となり、廃棄物処理の3原則「安定化・安全化・無害化」の確保が第一となります。

実際には、コスト面や環境負荷の面でかなり無理をしてマテリアルリサイクルを進めている事例も見受けられます。

この様に複数素材の混合物のポストコンシューマー品に関しては、あえて無理にマテリアルリサイクルを行うのではなく、コストや環境負荷の発生状況を踏まえて熱回収(サーマルリカバリー)などを含めた処分方法を検討すべきです。

パナ・ケミカルの犬飼社長は「潔いリサイクル」という考え方を提唱されていますが、プラスチック廃棄物の排出状況に応じた処理の在り方、ヒトと装置の能力のベストミックスという事を十分に吟味しながらマテリアルリサイクルを進めていく必要があるのではないでしょうか?

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潔いリサイクル」が結果として、社会におけるプラスチックリサイクルの最適化に大きく資するものであると思います。

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