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【環境法務】
バーゼル条約上の
「分子内にハロゲン原子を含む重合体」ついて

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2021年1月19日

2021年1月1日より改正バーゼル条約が施行され、廃プラスチックの国際物流の形が大きく変わりました。

今回の改正のポイントは、”全ての廃プラスチック”がバーゼル条約において網羅的に規定される事になった事にあります。

具体的には下表に示した様に、「特別の考慮が必要な廃プラスチック」、「有害な廃プラスチック」、「非有害な廃プラスチック」の3種類に分類され、「特別の考慮が必要な廃プラスチック」と「有害な廃プラスチック」についてはバーゼル条約上の規制を受ける事となりました。
 

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ただし、一つ注意して頂きたいのですが、この規制は決して「輸出禁止措置」ではないのです。規制対象の廃プラスチックであっても輸出相手国の同意があれば輸出は可能です。

しかし、昨今のプラスチックの環境汚染に対する社会の厳しい眼を逃れて汚染を引き起こす可能性のある廃プラスチックを越境させる事は非常に難しくなると考えた方が宜しいかと思います。

さて、このバーゼル条約ですが、我が国の国内における実務的な取扱いは「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)」に基づいて執り行われています。

今回の改正において最大のポイントとなるのは、先に述べた「特別の考慮が必要な廃プラスチック」というものの範囲をどうするかという点です。

「特別な考慮」って何の事なのか良く分かりませんよね。

そこでバーゼル条約の改正内容を見てみますと、附属書ⅡのY48に以下の様に定義されています。

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要は廃プラスチックのうち、保有する物理的・化学的・生物学的な性質などに由来する有害性を有する「有害な廃プラスチック」とリサイクルに適した「非有害な廃プラスチック」以外は基本的に「特別の考慮が必要な廃プラスチック」であると記されているのです。

ただ実務上は、どの様な廃プラスチックが「特別な考慮が必要な廃プラスチック」に該当するかは各国の解釈に委ねられているという事になる訳です。

昨年末までに環境省や経済産業省において廃プラスチックの異物の含有量や汚れの程度を吟味して「特別な考慮が必要な廃プラスチック」の該当範囲の検討が進められ“一応の範囲”が定められましたが、実際に運用する現場では混乱が生じています。

このバーゼル条約への対応を誤ると廃プラスチックのリサイクルで生計を立てている我々としては命取りになる可能性がありますので、この会員ページでも実務上のポイントを折々に触れて取り上げたいと思います。

前置きが長くなりましたが、今回お話しさせて頂くのは、「バーゼル条約におけるハロゲン化された重合体とは何か?」というテーマについてです。

先に述べました様に今回のバーゼル条約の改正においては全ての廃プラスチックについてバーゼル条約上の取扱いを定める事になりまして、バーゼル条約における「廃プラスチック」というものがどの様なものなのかが条文(B3011)に明記されています。

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ここでポイントとなるのは、条文中に記されている「ハロゲン化されていない」という文言です。

ハロゲン化された重合体といいますと、真っ先に「ポリ塩化ビニル」や「ポリ塩化ビニリデン」を思い浮かべる方が多いかと思います。

化学に明るい方ならばご存知でしょうが、一般の方からすると「ハロゲンって何?」と思われるかと思いますし、化学に明るい方でも「この条文の内容では、塩ビ以外でもハロゲン系の難燃剤が入ったプラスチックも規制対象になるのでは?」と不安に思われるかも知れません。

そこで技術の観点からこの「ハロゲン化された重合体」というものを読み解いていきたいと思います。

まず「ハロゲン」という言葉についてですが、ハロゲンとは元素の周期表の第17属に属する元素であり、一般的にはフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)の事を指します(周期表上には、アスタチンとテネシンも存在していますが、工業的には全く使われておらず、今回は関係無いものとして扱います)。

 分子内にハロゲン原子を含む、つまり「ハロゲン化された」とは、重合体の分子構造のいずれかの部分に”直接”「化学結合」によって「ハロゲン原子」が結合(化学的には「導入」といいます)された状態であると言えます。

例えば、分子内に塩素原子を有する重合体の代表例である「ポリ塩化ビニル(PVC)」は、炭素原子が連なった主鎖から炭素原子一つ置きに一つの塩素原子が結合しています。

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ここで重要な事は、”直接”という点でありまして、ハロゲンを含有する難燃剤などの添加剤が含まれただけでは、「ハロゲン化された」とは言えないのです。

従って、ハロゲン系の難燃剤を使ったとしても分子内にハロゲン原子が直接化学結合した重合体が含まれていなければバーゼル条約の規制を受ける事は無いと解する事ができます。こことても重要なポイントです!

あくまでも重合体分子内に直接の化学結合を介して”ハロゲン原子”が存在する事が「ハロゲン化された」の要件となります。

この点は後で示すバーゼル条約の条文中に記されている「ハロゲン化されていない重合体」という文言を理解する上での最も基本的な考え方となります。

 重合体にハロゲン原子を導入する技術的な理由としては、(1)難燃性の付与、(2)結晶性や軟化性(ゴム性)の制御、(3)帯電性の制御などが挙げられます。

難燃性については、難燃剤を加える事無く難燃性を付与する事ができるため、広く建材などで利用されています。

結晶性や軟化性の制御についてはポリエチレンを塩素化した「塩素化ポリエチレン」が広く使われており、ポリエチレン分子を”定量的”に化学改質して塩素化する事でポリ塩化ビニル(PVC)では難しい結晶性の制御や材料の軟らかさを自在に制御する事が可能です。

分子内にハロゲン原子を有する重合体は様々なものが知られていますが、私の知る限り、一般に流通し、その使用後もしくは使用に供されずに端材やオフグレード品としてリサイクルのために排出される可能性があるものとしては以下のものが挙げられます。

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但し、注意して頂きたい事が一つあります。

それは上図に示した「ポリフッ化ビニル」の様な「分子内にフッ素原子を含む重合体」の扱いです。

先に述べました様に「フッ素」もハロゲンの仲間であり、フッ素原子が分子内で直接結合された重合体についてはバーゼル条約の規制対象と解すべきなのですが、先に示した条文(B3011)には以下の様な”続き”があります。
 

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実は、フッ素というハロゲンを含有していても、「ふっ化重合体から成るプラスチックの廃棄物」はバーゼル条約の規制対象外である旨が別途記されているのです。

但しこの条項の適用に関しては条件がありまして、「消費者によって捨てられた廃棄物を除く」と併記されています。

つまり、含フッ素の廃プラスチックについては、「消費者によって捨てられた(=ポストコンシューマー品)はバーゼル条約の規制対象となるものの、消費に供されていない「プレコンシューマー品」については規制対象外とする」旨が記されているのです。

なんか妙な話ですよね。

恐らく実際の物流状況や各国の駆け引きなどを反映した結果であると思うのですが、一体どうやってプレコンシューマー品である事を現場で確認するのか非常に疑問です。

改正バーゼル条約の運用は始まったばかりで物流の現場は混乱しています。

この混乱はしばらく続くと思われますが、この会員ページでも適時情報を整理し、如何に対応すべきなのかをお伝えしたいと思います。
 

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