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【技術解説】
作業効率を上げるための識別と分別

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2020年12月1日

この会員ページでたびたび申し上げていますが、品質に優れる資源プラを製造するためには、適切に排出されたプラスチックの種類を識別し、汚れや異物を除去する事が非常に重要です。

高品質を生み出す基本的な戦略はこれに尽きるといっても過言ではありません。

しかるに「識別」という操作にはもう一つ重要な意味があります。

それは「処理作業の効率を上げる」という意味なのです。

これでは一体何を言っているのか分かりませんので、順を追って説明させて頂きます。

まずは下写真をご覧下さい。

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皆様御存知、パナ・ケミカルのお家芸「発泡スチロールのリサイクル(中間処理)」の現場の様子です。

卸売市場などで排出されたビーズ成形発泡スチロール(EPS)を破砕機に投入していますね。

この処理場には水産や青果由来の様々なEPS製容器が持ち込まれるのですが、中には厄介なものも持ち込まれます。下写真をご覧下さい。

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EPS製の魚箱は積みあがっているのですが、この中にちょっと“毛並み”が違う魚箱が混じっているんです。

どこにあるか分かりますか?答えを下の写真に示しますが、実は「低発泡のEPS製魚箱」が混じっていたんです。

honbori_1606773969.jpg

「低発泡」とは読んで字の如く発泡倍率が通常のEPSよりも低い事を示しています。

通常、魚箱に使われるものは50倍程度に発泡させたものが多いのですが、写真のEPSは20倍程度の発泡倍率となっています。

参考に低発泡EPSの表面を撮影した写真を以下に示しますが、これでは普通のEPSとどの様に違うか分かりませんよね。

honbori_1606774033.jpg

そこで両者を比べ易くするために並べてマクロ撮影してみました。

honbori_1606774043.jpg

これならば違いが分かりますよね。発泡したビーズの大きさが明らかに違いますよね。

実は、このビーズの発泡の程度の違いが非常に重要でありまして、魚箱の重量や強度に大きな影響を及ぼすのです。

同じ大きさの魚箱を作る場合に当然の事なのですが、発泡倍率が高いビーズを用いた方が量を少なくする事ができますし、逆に発泡倍率が低いビーズを用いた場合には多くの量が必要となります。

よって、低発泡のEPSは普通のEPSよりもかなりズッシリと重くなります。これは作業者にとって結構な負担になります。

そしてこの発泡倍率の違いは中間処理の初工程である粗破砕時の挙動にも大きな影響を及ぼします。

下写真に粗破砕を施した後のEPS破砕物のマクロ撮影写真を並べて示します。

honbori_1606774098.jpg

通常のEPSの粗破砕物の破断面(右写真)を見ますと、均一に削れています。これは発泡ビーズ同志がシッカリと溶着しているためで、破砕刃が魚箱に食い込む際に剪断力が均一に働いている事を示しています。

他方、低発泡EPSの粗破砕物の破断面(左写真)では発泡ビーズの形状がハッキリと残っています。これは粗破砕の際にビーズ自体が破壊されず、ビーズが掻き取られる様な形で破砕が進行した事を示しており、破砕刃が魚箱に食い込む際に掛かる剪断力が乱れている事を示しています。

この剪断力の乱れは破砕刃、ひいては破砕機への機械的な負荷の増加となります。結果、破砕機が過剰負担を検出し、緊急停止してしまう事があるのです。

実際、低発泡EPSを連続して投入した際には、緊急停止する事が時折見られます。その際の写真を以下に示します。

honbori_1606774179.jpg

破砕機が緊急停止した際には、破砕機へ過剰な負担をもたらした低発泡EPSを除去して安全を確認する必要がありますので、一旦、破砕機の電源を落とす必要があります。

これは大変な手間でありまして、著しく作業効率を低下させてしまいます。

そこで、処理の現場では、作業者によって低発泡EPSを見つけ次第、処理作業の動線から脇へ除き、普通のEPSに挟みながら偏る事が無い様に破砕機へ投入されています。

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これは口で言うのは簡単なのですが、実際にやるのは至難の業です。

先に見て頂きました写真の様に、見た目では普通のEPSと低発泡EPSを識別するのは非常に難しく、作業者の経験と勘に基づいて触感や質感から判断されています。

まさに“職人技”です。

普通のEPSも低発泡EPSも共にポリスチレン(PS)を発泡させたもので、本質的には同じ素材なのですが、発泡倍率のみが異なる事で粗破砕処理時の挙動が異なります。

低発泡EPSのみを連続して粗破砕すると破砕機に過負荷を与えてしまう可能性があり、円滑に粗破砕を進めるためには低発泡EPSを分散して計画的に破砕機へ投入する必要があります。

そのためには、低発泡EPSを「識別」し、「分別」しておく必要があるのです。

こんな事を言うと、「何らかの分析装置で発泡倍率の識別は出来ないの?」、「無理にヒトの力に頼らず、識別できる装置を開発すればいいじゃない」なんていう事をいう人が出てくると思います。

しかし、冷静に考えてみて下さい。

発泡倍率の違いを分析装置で識別する事なんてできますか?仮にできたとしても、投資に見合うだけの効果が得られますか?

やはりヒト以上の識別装置は存在しないんです。

この非常に厄介な作業を現場の作業者は築き上げてきた「経験」と「勘」によってなし得ている訳で、この技能が資源プラ製造の土台を支えていると言えます。

スゴイですよね。

熟達した技術を持つ「ヒト」こそ資源プラ製造における最大の武器ですね。
 

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