【Q&A】再生ポリスチレン原料を再度発泡成形するのが難しい理由
- 本堀 雷太

- 2022年10月3日
- 読了時間: 7分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。秋風が吹く様になり、だいぶ涼しくなってきましたね。
さて、私の事務所やパナ・ケミカルには、日々お客様からプラスチックやリサイクルに関する様々なご質問が寄せられてきます。
この中には、パナ・ケミカルのお客様の皆様としても知っておいて頂いた方が良いものも多く、この会員ページで【Q&A】の形で取り上げさせて頂いています。
さて今回は、産業廃棄物の中間処理業を営んでおられるお客様から頂いた「発泡スチロールからもう一度発泡スチロールって出来ないの?」とのご質問にお答えさせて頂きます。
最近、巷で流通している飲料用のPETボトルの中には、「100%リサイクルPETを使用」とか「国産リサイクルPETを使用」などを謳い文句にPETの「ボトルtoボトルリサイクル」をアピールしている事例が見られます。
元の用途に再びリサイクルする技術を「水平リサイクル」と言いますが、この技術自体は古くマテリアルリサイクルの創成期から検討されてきました。
発泡スチロール(発泡ポリスチレン)に関してもこの水平リサイクルの検討は行われており、特に押出発泡ポリスチレン(XPS)製の断熱材、充填材などの建材分野では盛んに技術開発が試みられてきました。
しかしながら、「全量を建材にリサイクルする」というビジネスモデルは未だに成功していません。
「プレコンシューマー品由来の再生ポリスチレン原料をバージン材に添加して成形する」形の工場内リサイクルが行われているのみであるのが実情で、ビーズ法発泡ポリスチレン(EPS)に関しては皆無であります。
現に再生ポリスチレン原料で成形されたEPS製魚箱なんて見た事無いですよね。
では、なぜ発泡ポリスチレンの水平リサイクルは行われていないのでしょうか?
実は、ここには大きな”技術的なハードル”が横たわっているからなのです。この辺りのお話しはかなり専門的になってしまいますが、非常に重要な事項ですので順を追って説明させて頂きます。
まず発泡成形の仕組みと発泡成形に供されるポリスチレン原料に求められる物性について簡単にお話しさせて頂きます。
押出発泡成形を例に見てみましょう。押出発泡とは、「押出機において、溶融樹脂と揮発性の発泡剤を加圧条件下で混合し、ダイ(押出口)から大気圧下に押し出し、同時に発泡剤が蒸発する事で成形品を発泡させる成形法」です。

発泡成形においては、気泡が独立で小さく、膜厚が均一であるほど断熱性が高くなります。
ところが、気泡が小さすぎたり、泡の形状が不均一であったりすると、耐衝撃性などの機械的な物性が低下してしまいます。
そのため、断熱材の成形においては、これらの条件を満たす気泡の大きさ(気泡径)や形状が均一である“均整な気泡”を形成する事が機能発現のための必須条件である訳です。
では、どの様にすれば均整な気泡が得られるのでしょうか?
そこで、「伸長粘度」と「ひずみ硬化性」という考え方をご紹介します。
「伸長(伸長変形)」とは、物体を両側から水平方向に引き延ばす作用の事で、押出や発泡といったプロセスは伸長を行っている事になります。そして、この伸長を行う時の粘度の事を「伸長粘度」といいます。

「なぜ、発泡が伸長なの?」と思われる方もおられると思いますが、3次元方向へ気泡が成長する発泡においては、気泡核の周りの溶融プラスチックの伸長変形を伴うので、伸長という変形現象で考える事になるのです。
さて、この伸長粘度が押出量(ひずみ量)に従って増えていく性質を「ひずみ硬化性」、逆に伸長粘度が押出量(ひずみ量)に従って減少する性質を「ひずみ軟化性」といいます。

つまり、ひずみ硬化性とは、溶融プラスチックが変形するにつれ、変形した箇所の粘度(伸長粘度)が高くなる現象であると言えます。ひずみ軟化性はこの逆の現象です。
実は、この「ひずみ硬化性」という性質が、発泡成形により“均整な気泡”を形成するための必須条件であるのです。
加熱時や発泡時における伸長粘度が低いと、気泡が破裂しやすくなり、均整な気泡を形成する事ができません。
そのため、押出や発泡といった伸長する過程が進むのに伴って、ポリスチレンの溶融粘度が“ある程度”上昇し、気泡の形成を安定化させる必要があります。
ざっくばらんに言いますと、ダイから押し出されている状態の溶融樹脂中の泡が安定に存在するためには、“適度に粘っこい状態にある”必要があるという事です。逆にさらさらの状態ですと、樹脂が押し出されていく過程で泡が破れてしまいますよね。
この様に、押出発泡成形においては、押出や発泡に伴って粘度が上昇する「ひずみ硬化性」という性質が求められるのです。

この伸長粘度の考え方だけでは、解りにくいかもしれませんので、少し違う角度から見てみましょう。
下図に伸長に伴って変形個所付近の溶融プラスチックが受ける抵抗力(「伸長応力」といいいます)と伸長量である「伸長ひずみ」の関係を示します。

ひずみ硬化性により変形した箇所の伸長粘度が高くなるという事は、変形した場所の付近の溶融プラスチックは、変形していない箇所の付近の溶融プラスチックに比べて多くの抵抗力(「伸長応力」と言います)を受ける事になります。
伸長量(変形量)が増すにつれ、変形個所周辺の溶融プラスチックから抵抗を受け、この結果、変形が進んだ場所ほど“新たな変形”が起こりにくいという事になるのです。
つまり、ひずみ硬化性のある素材においては、一旦変形した箇所では、まだ変形していない箇所が変形するまで待ち、変形が追いついてから新たな変形が進む事になります。
逆にひずみ硬化性のない素材では、変形した箇所も変形していない箇所も同じだけの力を受け続けていく事になりますので、変形した場所は更に多く変形する事になります。
この考え方に基づけば、発泡における気泡の成長において、ひずみ硬化性のある素材では、均一に気泡が成長し、均一の膜厚や形状を有する均整のとれた気泡が安定的に形成される事になります。
逆にひずみ硬化性の無い素材では、溶融プラスチックに掛かる力(伸長応力)が不均一に掛かる事になりますので、膜厚が不均一となり、大きさや形状もバラバラになります。

つまり、「ひずみ硬化性」とは、発泡プロセスにおいて、自由な伸長変形を伴う気泡成長の安定性を与える効果であると言えます。従って、発泡成形においては、ひずみ硬化性を有するプラスチック原料を用いる事が重要な条件となります。
一般に非晶性プラスチックは、ガラス転移点と融点(流動可能温度)の間にゴム領域が存在し、この領域ではひずみ硬化性を示します。
そのため非晶性プラスチックの代表格であるポリスチレンは、当然このひずみ硬化性を示し、発泡成形が比較的容易である訳です。
ひずみ硬化性は、ポリスチレンの分子同士の絡み合いや分子自身の縮まりに由来するのですが、基本的にこれらのファクターは分子量に大きく依存します。
故に、中間処理や再生処理の過程で、機械的なエネルギーや熱的なエネルギーが投入された再生ポリスチレン原料においては、ポリスチレン分子の切断による分子量の低下が見られ、ひずみ硬化性を失う事になります。
結局、「再生ポリスチレン原料自体は、そもそも発泡成形に向いていない原料である」と言えるのです。この点、非常に重要ですので押さえておいて下さい。
この事から考えますと、均整な気泡を形成させるためには、バージンポリスチレン原料をベースに、再生ポリスチレン原料を“気泡を破壊しない様な量だけ”混ぜて発泡させる必要がある訳で、実際、技術的には、無理して再生ポリスチレン原料を使う理由は無いのです。
ただ、コスト軽減や環境調和という目的のために何とか再生ポリスチレン原料を用いるために、成形技術上の様々工夫がなされているのです。
今回お話しさせて頂きました「伸長粘度」や「ひずみ硬化性」といった性質は、発泡成形のみならず、シート成形やブロー成形などの分野でも非常に重要な性質であり、発泡体のみならずシートなどへの再生原料の利用の際にもカギとなるフ考え方です。
難しい考え方ではありますが、非常に大切な考え方なので、頭の片隅にでも留め置いて頂けますと有難いです。
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