【Q&A】オキソ(酸化)分解型プラスチックとは?
- 本堀 雷太

- 2022年4月9日
- 読了時間: 5分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。桜も開花して春本番ですね。
ところで、私の事務所やパナ・ケミカルには、日々お客様からプラスチックやリサイクルに関する様々なご質問が寄せられてきます。
この中には、パナ・ケミカルのお客様の皆様としても知っておいた方が良いものも多く、この会員ページで【Q&A】の形で取り上げさせて頂きたいと思います。
さて今回は、私のお客様で食品包装を扱われている商社の方から頂いた「オキソ分解型プラスチックって一体どんなものなの?」のとご質問にお答えさせて頂きます。
何でもこのお客様は、海外の樹脂メーカーの輸入代理店の営業の方からオキソ分解型プラスチックのお話しを伺ったそうですが、何だか良く分からなったため、私の方へお問い合わせを頂いた次第です。
実は、自然界へ逸出したプラスチックによる環境破壊に全世界的な注目が集まる中、環境に調和したプラスチックとしてカーボンニュートラルなバイオマス由来のプラスチックや微生物などの作用で分解する生分解性プラスチックに注目が集まっています。
オキソ(酸化)分解型プラスチックもこの流れに乗った「環境に調和したプラスチック」である事を喧伝しながら現れた分解性プラスチックの一つです。
香港や中東地域の一部でオキソ分解型プラスチックが導入されている例が見られるものの、我が国での導入事例は未だに無い様です。
ご存知の方も多いと思いますが、生分解性プラスチックは、エステル結合などの加水分解性の官能基を分子中に含んでいるため、微生物の持つ酵素(加水分解酵素)などの作用で結合の切断が起きて分解が進行します。

他方、オキソ分解型プラスチックは生分解性プラスチックとは全く異なる機構で分解が進行します。
オキソ分解型プラスチックの基材のポリマー(高分子)に使われるのは、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンとエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などのポリオレフィン誘導体で、これらのポリマー鎖中には加水分解性の置換基は存在していません。

では、どの様に分解が進行するのでしょうか?
実はオキソ分解型プラスチックでは、光や酸素の作用(酸化)で基材のポリマー鎖を分解する添加剤が加えられており、環境中で時間が経過すると共にポリマー鎖の鎖長(分子量)が減少します。

生分解性プラスチックとはいささか異なる分解機構ですね。
さて、このオキソ分解型プラスチックですが、石油由来のポリエチレンやポリプロピレンに数パーセント(通常は1~2%程度)の添加剤を加えて製造されます(基本的には添加剤を含有したマスターバッチを利用してコンパウンディングが行われます)。
故にバイオマス由来では無いため、使用におけるカーボンオフセットの効果を期待する事はできません(但し、バイオマス由来のポリエチレンを利用した場合は別です)。
しかし、いくつかのメリットも存在します。
一つ目は「製造コスト」です。通常の生分解性プラスチックは製造コストが高く、この高コストが普及を妨げている点が指摘されています。
しかるにオキソ分解型プラスチックは安価なポリオレフィンを基材としており、また添加剤の添加量も少ないため製造コストを抑える事が可能となります。
二つ目は「成形性」です。生分解性プラスチックは流動性が悪かったり、結晶化速度が遅かったりするものが多く、成形性の面で不利である事が多いのが実情です。
オキソ分解型プラスチックは、成形性が良好で、成形技術も確立しているポリオレフィンを基材としており、実際の成形条件もほとんど変えることなく、従来の成形設備をそのまま利用する事が可能です。
三つ目は「成形品の物性」です。添加剤の添加量が比較的少ないため、成形品の機械的強度などの物性に与える影響が少ないというメリットがあります。
この様にオキソ分解型プラスチックは導入や普及へのハードルが低い分解型プラスチックであると思われるのですが、大きな問題を抱えています。
それは、本来の売りである「分解性」にあるのです!
生分解性プラスチックでもよく問題視されるのですが、「自然界でどこまで分解が進むのか?」という点に留意する必要があります。
生分解性プラスチックの代表格であるポリ乳酸でも「最終的には水と二酸化炭素に分解する」と謳っていますが、これは微生物による分解がかなり整えられた条件下、例えば高速堆肥化装置を利用するなどの自然界ではほとんど無い様な条件下で行った場合に限られます。
恐らく多くの場合は、自然に逸出して分解が進んだとしても、オリゴマーレベルで残存すると思われます。
実はオキソ分解型プラスチックについても同様で、添加剤の作用で分解が進んだポリオレフィンもオリゴマーレベルで分解が停止し、形態によっては今注目を浴びている「マイクロプラスチック」の形で自然環境中に残存すると考えている専門家が多いです。
これではミクロレベルに小さくなっただけで、見た目は無くなるものの、環境に与える影響はむしろ大きくなってしまう可能性がありますよね。まさに本末転倒です。
但し、オリゴマーレベルのポリエチレンに関しては、生分解性があると指摘する専門家もいるため、更なる技術的な検証が必要であると思います(私個人としては、ポリオレフィンの結晶状態が生分解性に大きな影響を及ぼしているのではないかと考えています)。
いずれにせよ、オキソ分解型プラスチックは売りである「分解性」の部分で不安が残る事になります。
事実、欧州プラスチック戦略に基づいてワンウェイのプラスチック製品の流通を規制した「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令」(2019年発効)では、ワンウェイプラスチックの禁止対象を策定すると共に、オキソ分解型プラスチックを使用した全製品の使用を禁止しています。
「分解性」というと「環境にやさしい」様なイメージを与えてしまいますが、「分解がどの程度まで進むのか?」という点は十分に留意する必要がありますね。
プラスチックと上手に付き合って行くための手段として分解性プラスチックを使う事を否定するつもりはありませんが、如何にして自然環境へ逸出させずに回収し、リサイクルを含めた適切な処理を施す「閉じたループ」の構築を十分に検討する必要性を感じますね。
今回はお客様よりご質問頂きました「オキソ分解型プラスチック」についてお答えさせて頂きました。
ご質問などありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。お待ちしております!
