【技術解説】ダイオキシン類の濃度表示法
- 本堀 雷太

- 2025年2月1日
- 読了時間: 6分
更新日:2025年6月16日
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。節分ですね。
さて、パナ・ケミカルでは、月に一度社員向けの「パナ・ケミカルオンラインカレッジ」というオンライン勉強会を行い、業務遂行に必要な能力の向上に努めています。
私の方では、「資源プラ“虎の穴”」と命打ちまして、技術や商品知識、法務、経営管理等のプラスチックに関するトピックスやリサイクルを事業として営むために必要な基礎知識を学ぶオンラインセミナーを取り仕切らせて頂いています。
先日の資源プラ“虎の穴”では、「焼却技術総説」として廃棄物の焼却技術を“まるっと”解説させて頂きました。
このセミナーの動画は、後日、この会員ページのメンバーの皆様に限り公開させて頂きますので、是非ご覧頂けましたらと思います。
焼却技術を解説させて頂く中で、焼却に伴って生じるダイオキシン類の発生の機構や挙動、濃度の表示法などについても取り上げる予定であったのですが、時間の関係で簡単にしか取り扱う事ができませんでした。
特にダイオキシン類の濃度表示法については法規制との関係があり、非常に重要な事項でありますので、今回この場を借りて解説させて頂きます。
中間処理業者の方々から良くご質問を頂きますのが、「ダイオキシン類の濃度を表す時の単位「ng-TEQ/m3N」のTEQって何ですか?」というものです。
廃棄物処理に関わっておられる方ならば、否応無しにダイオキシン関係の話題は目に入ってくると思います。
御存知の方も多いと思いますが、ダイオキシン類対策特別措置法において、「ダイオキシン類(DXNs)とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co-PCBs)の総称」と定義されています。

ベンゼン環に対する塩素原子の結合数(置換数)と結合位置(置換位置)により、多くの異性体が存在し、PCDDsでは75種、PCDFsでは135種、Co-PCBsでは10数種の異性体が存在する事が知られています。
これらの異性体は構造の違いに伴い、その毒性も大きく異なります。一般に、1~3塩素化体はほぼ無毒、4~8塩素化体の毒性は強い傾向にあると言われています。
その中でも、最強の毒性を持つ2,3,7,8-TCDDの毒性を1とし、他の異性体の毒性は2,3,7,8-TCDDの毒性に換算してその毒性を評価する事になっています。

この時の換算係数を「毒性等価係数(Toxicity Equivalent Factors : TEF)」といいます。

ダイオキシン類の濃度は各異性体の濃度とそれぞれのTEFを掛け合わせて、その総和をもって「毒性等量(TEQ)」として表現されます。単位は、「ng-TEQ/m3N」や「ng-TEQ/g」が用いられます。
これが、ご質問の趣旨であるTEQの持つ意味です。
ダイオキシン類の毒性には、急激に体調が変化する「急性毒性」と徐々に変化が現れる「慢性毒性」とがありますが、急性毒性の影響を受けるレベルの濃度は、自然界においては存在しえないと言って差し支え無いと思います。
他方、慢性毒性については、長年、ダイオキシン類を体内に蓄積する事で発現する可能性があるため、ダイオキシン類対策特別措置法では、人が一生涯にわたり摂取しても有害な影響が現れないと判断される一 日当たりの摂取量を、「耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)」として体重1kg当たりの量で表し、4pg-TEQ/kg/日と定めています。
ダイオキシン類の化学構造は、ベンゼン環を中心に構成されているため、脂溶性が強く、ダイオキシン類が一旦、体内に取り込まれると、その大部分は脂肪に蓄積されて体内に長く留まる事になります。
そのため、ダイオキシン類の体外への排出速度は非常に遅く、ヒトの場合、体内の残存量が半分になるのに、7年程掛かると言われています。
さて、ダイオキシンの発生源として、“やり玉”に挙げられたのが、廃棄物焼却炉である事は皆様ご承知の事であると思います。
廃棄物の焼却処理自体が悪者扱いされ、環境中のダイオキシン類の排出源がすべて廃棄物焼却炉であるかの様に言われ、悔しい思いをされた処理業者の方もおられると思います。私もその一人です。
しかし、現在では、環境中のダイオキシン類の多くは、農薬に由来している事が明らかとなっており、廃棄物の焼却処理のみが悪者とされる理由は無くなりました。
しかし、廃棄物焼却炉や精錬用の電気炉、紙パルプの漂白処理過程、自動車の排ガス、タバコの煙などからも、ダイオキシン類が生成している事が明らかとなっており、何らかの方法で生成を制御する事があることは必要です。
ダイオキシン類対策特別措置法では、焼却処理に関わる排出基準を以下の様に規制しています。

廃棄物焼却炉からのダイオキシン類の生成の機構としては、
(1)燃焼室内での燃焼時における生成
不十分な燃焼によって燃え残ったクロロフェノール、クロロベンゼンなどの前駆体や、炭化水素などの未燃成分が、塩化水素と反応してダイオキシン類を生成する
(2)燃焼室を出た後の生成(デノボ合成 ; de novo synthesis)
燃え残った未燃炭素と塩化物が、300~500℃の温度条件下で、集塵装置や煙道に堆積したばいじん中に含まれる重金属類の触媒作用により反応して、ダイオキシン類を生成する
が知られており、焼却炉の運転方法を管理する事でダイオキシン類の生成を抑える事が、廃棄物処理法などで定められています。


基本は、高温条件下(燃焼室温度が850℃以上)での燃焼、十分な滞留時間(2秒以上)、燃焼室での燃焼ガスと酸素の十分な混合による未燃分の完全燃焼という3T(Temperature、Time、Turbulence)の因子を制御する事にあります。
廃棄物工学関係の教科書を見ると、この3Tの制御という項目は必ず書かれていますし、行政が発行しているダイオキシン類関係のパンフレットにも掲載されています。
確かに、焼却炉内の温度を上げれば、燃焼が促進され、ダイオキシン類の生成は抑制されるのですが、他方、大きな問題点も存在します。窒素酸化物の存在です。
焼却炉の燃焼温度を高くすると、ダイオキシン類(PCDDs)や、ダイオキシン類の前駆体となる一酸化炭素(CO)の濃度は低下します。
他方、窒素酸化物(NOx)の濃度は、燃焼温度と共に高くなる傾向にあります。これは、空気中の窒素(N2)が高温条件下で酸化され、NOxとなるためで、このような窒素酸化物を「サーマルNOx」といいます。
つまり、ダイオキシン類の発生抑制のために焼却温度を上げれば、窒素酸化物(NOx)が増え、逆に焼却温度を低く設定すれば、ダイオキシン類の生成量が多くなってしまうというジレンマを抱えている訳です。

窒素酸化物は硫黄酸化物などと共に酸性雨の原因物質であり、大気汚染防止法でも排出量が規制されています。
ダイオキシン類と窒素酸化物の双方の生成を抑制するのは至難の業であり、焼却炉を設計する上でも、大きな課題となっています。
今回は、ダイオキシン類の濃度表示方法と、ダイオキシン類の性質、生成を抑える方法などについて簡単に説明させて頂きました。
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ご不明な点などありましたら、パナ・ケミカルの担当者の方まで、気軽にお問い合わせ頂ければと思います。
