【技術解説】スチレンの自己重合性と減容装置の清掃
- 本堀 雷太

- 2023年8月1日
- 読了時間: 4分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。私の事務所の窓の外には、沸き立つような積乱雲が見えます。夏本番ですね。
さて、資源プラのトップランナーであるJ-EPSrecyclingの中核を担う技術に発泡ポリスチレン(発泡スチロール:EPS)の減容技術がありますが、この減容技術には様々な手法が存在します。
現在は熱を加える事で発泡ポリスチレンの泡(セル)を構成するポリスチレン(PS)の流動性を高めて空気を追いだす“熱利用型の減容方式”が主流です。
特に熱源にヒーター電熱を用いる「電熱ヒーター加熱方式」と、回転盤に粗破砕した発泡ポリスチレン片を導き、摩擦により発生した熱を利用してポリスチレンのガラス転移点である約100℃付近で加熱を行う「摩擦熱利用型加熱方式」が多くを占めています。

これらの処理原理はケミカルリサイクルなどに比べると簡潔であるものの、円滑に処理作業を進めていくためには、装置のメンテナンスは欠かせません。
最近のプラスチック用の破砕機(粉砕機)や減容機は空送システムを利用した「クローズド型」が多く見られます。
このクローズドシステムは破砕機投入口の部分が負圧になっているため、粗割作業中に発生する粉じんの量が劇的に減少し、作業環境の改善に大変貢献しています。
発泡ポリスチレンの減容処理装置も中型機以上のものでは、クローズド型が多く見受けられ、安全で衛生的な中間処理の推進に大きく貢献しています。
ところが発泡ポリスチレンの減容機付近の配管部、特に脱臭機周辺には、何だか正体の良く分からない“カス”の様なものが溜まり易く、処理装置の長期稼動に伴って管の内部の広範囲に徐々に付着してきます。


今回はこの“カス”の正体を“化学の目”から見ていこうと思います。
熱利用型の減容方式の方式においては、発泡ポリスチレンの骨格部分を構成するポリスチレンの分子に熱エネルギーを与える事によって運動性を上げ、流動性を向上させる(=流れやすくする)操作を行っています。
そのため熱エネルギーを与えられたポリスチレンの分子はエネルギーレベルの高い状態にありまして、部分的に切断される事があります。
ポリスチレン分子の切断により、モノマーであるスチレンやエチルベンゼン、トルエン、クメン、イソプロピルアルコールなど様々な物質が発生します。
この様にポリスチレンの分子(ポリマー)の切断が起きる事で、モノマーなどの低分子が生じる現象を「ポリマーの熱分解」といいます。

なお比較的低温(100℃付近)で処理される摩擦熱利用型加熱方式においては、与えられる熱エネルギーは小さく“熱による”ポリスチレン分子の切断頻度は少なくなります。
しかし、粗破砕した発泡ポリスチレン片が回転盤ですり潰される際に“機械的な作用”によってポリスチレン分子の切断が生じます。この様な機械的作用による化学反応を「メカノケミカル反応」と言います。
参考として、以前私の事務所で調査した電熱ヒーター加熱方式で発泡スチロール製魚箱を処理した場合に発生したガスの成分を下に示します。

上表に示す通りポリスチレンの解重合系においては、ポリスチレンのモノマーである「スチレン」が生じている事がお分かり頂けると思います。
このスチレンという分子は、熱や光の存在下で容易にラジカル重合を開始する性質を持っています。
したがって、発泡ポリスチレンの減容工程において解重合により生じたスチレン分子は、減容工程の余熱などの影響により配管内で“再び重合”し、スチレンの重合体を形成していると考えられます。
実際には高分子量まで成長しているとは考えにくく、低分子量体(=オリゴマー)の状態にあると思われます。

配管の中から取り出した“カス”はスチレンの独特な香り(ガス臭い)がしており、未重合のスチレン分子も付着している事が伺えます。
スチレンもポリスチレン(オリゴスチレン)も当然、可燃物でありますので、配管が重合した付着物(カス)により塞がってしまい、熱が籠る様な状態になれば、爆発や火災が発生する可能性は否定できません。
特にスチレンのラジカル重合は発熱を伴う「発熱反応」で進行しますので、減容工程の予熱と重合熱が合わされば、配管内の温度は結構上昇する可能性があります。
したがって、定期的に配管の清掃をして頂き、事故発生リスクの軽減に努めて頂きたいです。

装置の清掃やメンテナンスは、品質に優れるポリスチレンインゴット(資源プラ)を生み出すのみならず、事故の発生を未然に防ぐために非常に重要な作業です。
優れた装置の能力を最大に発揮するために、装置や技術の概要やクセを掴んで頂けますと、より効率的に処理作業を進める事が可能になります。
ご不明な点やご質問などが有りましたら、遠慮なくパナ・ケミカルの担当者の方へお問い合わせ下さい。
