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【技術コンサルティングの現場から】工場に巣くうゴキブリにはご用心!

パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。

 

最近の破砕機・粉砕機というものは実にスグレモノでして、比重選別や磁選別などの異物除去機構がデフォルトで組み込まれているもが多く存在します。

 

例えば下写真は、発泡スチロール製魚箱の減容処理における粗破砕時の比重選別により分離された異物を撮影したものです。

 

 

発泡スチロールのマテリアルリサイクルの大敵である輪ゴムが見事に分離されています。

 

作業者の目視による識別だけでは、どうしてもこの様な異物を見落とす可能性をゼロにする事はできませんので、この異物分離の機構を工程中に備えている処理装置というものは実に有難いものです。

 

さて、上に示した写真なのですが、輪ゴムの左上に異物として分けられた何やら“黒い楕円形のもの”が見受けられます。

 

これを拡大して撮影した写真を下に示します。

 

これ何だか分かります?プラスチックの破砕物にしては規則正しい形状をしていますよね。

 

 

実は、これは「ゴキブリの卵鞘(らんしょう)」なのです。

 

卵鞘とは、卵が入った鞘の様な形をしたカプセルでありまして、ゴキブリの種類により異なるのですが、中に数十個の卵が入っています。

 

従いまして、コイツが見つかるという事は工場内でゴキブリが繁殖している可能性が高いという事になります。

 

卵鞘は堅いカプセルでありまして、ゴキブリの卵を外敵や乾燥から守る働きがあります。

 

また先にも述べました様に、一つの卵鞘の中には数十個の卵が入っていますので、これが孵化してしまいますと一気にゴキブリだらけになってしまいます。

 

よく「ゴキブリが1匹見つかると、100匹はいる」なんて言いますが、これはこの卵鞘の存在に由来しているのです。

 

私も技術コンサルタントという仕事柄、工場の衛生管理のご相談を頂く事が多いのですが、ゴキブリやネズミなどの衛生害虫・衛生動物の管理は非常に重要なテーマです。

 

「たかだかゴキブリで何をガタガタ言っているんだ?」と思われる方もおられるかと思いますが、工場におけるゴキブリの存在は非常にコワい一面があるのです。

 

寒い時期においては、ゴキブリは暖かい場所を求めて工場内を徘徊します。そして熱源があるヒーター部分や配電系に入り込んでしまう事が良くあるのです。

 

何らかの拍子で加熱状態にあるヒーター部分や通電状態にある電気系に触れてしまったりすると、ヒーター部分で発火したり、回路がショートしたりして火災や事故に繋がる事があります。

 

事実、この様な事故は過去にも幾度となく起きており、その被害も馬鹿になりません。

 

そのため、卵鞘を見つけた場合、念のためヒーター部分や配電部をチェックし、ゴキブリが侵入していなか、卵鞘が産み付けられていないかを確認する事をお勧めします。

 

最初の写真でお示しした様に、卵鞘が破砕機の異物除去機構で見つかった事は、外部から持ち込まれた発泡スチロールに付着していた可能性に加え、破砕機内部に産み付けられた卵鞘が何らかの拍子で落ちてきた可能性も考えられます。

 

そこで、破砕機の配電盤をチェックしてみますと、案の定、ありました!ゴキブリの卵鞘を見つけました。

 

 

この調査を行ったのは正月明けの事なのですが、「ゴキブリってそんな寒い時期にもいるの?」と思われる方もおられるのではないでしょうか?

 

実は、我が国には50種類以上のゴキブリの仲間が生息しているのですが、その多くは屋外の森林などでひっそりと生活を営んでいます。

 

しかし、中には人家や工場などのヒトが生活する屋内環境に進出し、ヒトに迷惑をかけるゴキブリの仲間がいます。

 

特に工場で良く見掛けるゴキブリとしては、「クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)」が挙げられます。

 

 

このクロゴキブリは元々我が国には居なかった種類で、原産地は中国の南部であると考えられています。

 

ただし我が国にやってきた時期は大昔でありまして、縄文後期の遺跡から発見された土器に卵鞘の痕跡が残っていたそうです。つまり、人類が世界各地へ移動するのに付き従って分布を広げていった種であるといえます。

 

そしてこのクロゴキブリは寒さに強く、我が国に生息する屋内性のゴキブリの中では唯一越冬が可能な種です。

 

事実、先に示した配電盤内で見つけた卵鞘は顕微鏡観察をしたところ、クロゴキブリのものである事が明らかとなりました。

 

そしてこの工場の水廻りの付近で成虫を発見する事ができました。

 

クロゴキブリの成虫と卵鞘を共に確認した事から、この工場内でクロゴキブリが繁殖している可能性が高いと言えます。

 

この工場においては夏季にも別の種類のゴキブリの繁殖が確認された事があります。

 

それは「チャバネゴキブリ(Blattella germanica)」という種類のゴキブリで、クロゴキブリと同じく屋内性です。

 

このゴキブリもクロゴキブリと同じく元々我が国にいた種類ではなく、アフリカ原産であると考えられています。

 

但し、クロゴキブリとは異なり寒さに弱く、越冬できないため冬季に見る事はありません。

 

この工場では、夏季に水廻りの付近で多くの個体が発生しているのを確認し、中には脱皮を行っている個体も見つける事ができました。下に脱皮途中の写真を示します。

 

 

ゴキブリも他の昆虫と同じく、脱皮仕立ては真っ白い体色をしていまして、このままですと意外に美しいのです。

 

まあ、いずれにせよ配電盤内に卵鞘を、水廻りの付近でクロゴキブリの成虫を見つける事ができた訳ですから、工場内にクロゴキブリが繁殖している事は疑いない状態であると言えます。

 

そこで従業員総出で工場内の清掃の徹底と装置内部の確認を行う様に指導した次第です。

 

「たかがゴキブリ」と侮ってはいけません。

 

先に述べました様にゴキブリはヒーター部分や配電系で悪さをするだけでなく、サルモネラ菌などの病原性細菌や病原性のウイルスを媒介します。

 

そのため、工場の作業者の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。

 

清潔な環境を工場内に構築する事は、労働者の衛生のみならず安全な操業のためにも必須です。

 

是非、皆様の事業所でも一度チェックして頂ければと思います。

 

 

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