top of page

【労働安全衛生】熱中症にご用心!

パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。


それにしても暑いですね。ホントに暑い!エエ加減にしてくれと言いたいですね。


近年、温暖化の進行やヒートアイランド現象により、都市部を中心に平均気温が上昇しています。


これに伴い、屋外や工場での作業中に熱中症が多発し、1990年代の中頃から熱中症による死者の数が増加しています。


また最近では、事務所においても、室内の換気不足や作業者の水分補給が不十分である事による熱中症が多発しています。


故に、作業者の健康を維持するため、事業所における熱中症対策を適切に行っていく必要があります。


この会員ページをご覧の皆様には、「熱中症は対策を誤れば、作業者を死に至らしめる事もある非常に恐ろしい疾病である」という事を十分に理解して頂きたいのです。


そこで、今回は熱中症とその対策についてまとめてお話しさせて頂きます。非常に重要な事項ですので、内容を皆様の事業所でも共有して頂けますと有難いです。


労働衛生管理の観点では、熱中症とは、「暑熱環境にさらされた結果生じた症状の総称」と定義されます。


従来は、症状の軽い順に、(1)熱失神(立ちくらみ)、(2)熱痙攣(筋肉の硬直など)、(3)熱虚脱(ぐったりとするなど)、(4)熱射病(高体温など)に分けられていましたが、現在では、重症度を1度~3度に分類しています。





なお、似た言葉で「日射病」という言葉がありますが、専門家によって見解が分かれていますので、ここでは詳しく取り上げません。


プラスチックに関する成形や熱処理、リサイクルを行う際の加熱減容などのプロセスでは、作業環境の気温や湿度がおのずから高くなる訳で、特に熱中症への対策が必要となります。


例えば、発泡スチロールの加熱減容(ヒーター加熱式)の場合、筆者が測定した所、減容物吐出口周辺で気温が47℃にも達していました(8月の晴天時、ヒーター加熱温度250℃、測定ポイントの気流0.8m/s、湿度63%)。





これは、作業者にとって非常に過酷な環境であり、この装置を使用していた作業場では過去に熱中症(特に脱水症状)で倒れた方もおられました。


熱中症への対策方針としては、以下の4つが挙げられます。


(1)作業環境の温度状態を把握する

(2)作業員の体調を管理する

(3)作業環境を改善する

(4)熱中症が発生した場合の対応


以下、順にみて参りましょう。


(1)作業環境の温度状態を把握する

作業環境の温度状態の把握ですが、ヒトと周辺環境(作業環境)との間の熱のやり取り(熱収支)は、気温に加え、気流、湿度、輻射熱(物体の表面温度)などの要素を考慮する必要があります。


このため、作業環境の温度状態を把握するための指標には、通常の気温ではなく、「湿球黒球温度(Wet-bulb Globe Temperature : WBGT)」という値を用います。


WBGTは、気温、湿度、輻射熱、気流の4要素を加味した値であるため、熱中症対策などの職場の作業環境管理に有効です。


なおWBGTの測定は、「アウグスト温度計」という温度計を用いて計測し、得られたデータを演算する必要がありまして、少し面度なのです。ご参考に測定項目と測定データの処理法を以下に示します。





しかし、現在はハンディータイプのポータブル温度計も販売されています。地上1.2~1.5mくらいの位置に温度計を静置しておけば、リアルタイム測定し、連続的にデータ処理をしてくれるスグレモノです。


WBGTの値が下表に示す評価基準値を超える恐れがある場合、熱中症に罹るリスクが高まるため、作業の停止を含めたリスク低減のための措置を講じる必要があります。





(2)作業員の体調を管理する

作業者の体調管理ですが、睡眠不足や前日の過度な飲酒、発熱・下痢による脱水は熱中症の発症に影響しますので、作業者に対して健康管理を指導する必要があります。


また、糖尿病や腎臓病などの疾患を有する作業者については、熱中症を発症しやすいため、健康診断の結果を基に、適切な健康指導を行い、熱中症への注意を促していく必要があります。


そのため、朝礼時や工場内の巡視時などに管理者は作業者の様子をチェックし、体調によっては配置や作業内容の変更、作業時間の見直しなどの処置が必要です。特に作業は単独で行う事無く、複数で互いの作業の様子が確認できるようにするべきです。


熱中症は水分や塩分の損失により、発症しやすくなりますので、作業中にもこまめに水分や塩分を摂取する必要があります。なおこの水分摂取は熱中症の自覚症状の有無に関わらず行わなければならず、作業者への熱中症に関する十分な教育指導が必要です。


人間の体というものは、筋肉などを構成するタンパク質、エネルギーを貯蔵する脂肪、骨や歯などの無機物、そして水から成っています。


人体における水分の占める割合としては、成人男性で55~60%程度、成人女性で45~55%程度、幼児で55~70%程度と言われています。


新生児で水分が80%を占めるのですが、年齢が増すにつれ体内の水分量は減少していく傾向にあり、老人で50%程度に落ち着くそうです。


この体内の水分というものは、代謝に供されたりした後、尿や汗の形で排出され、不足分を飲むことで補っています。


参考に下表に人体における1日当たりの水の収支を示します。





通常、ヒトが1日活動するために必要とする水の量は2500ml程度、生命を維持するために最低限必要な量は1500ml程度と言われています。


したがって、少し余裕を見て1人1日当たり3000ml程度の水が飲用に必要という事になります。


塩分や栄養分の効率的な補給にはスポーツドリンクがすぐれていますが、無ければ水1lに対して塩を2~3g溶かしたものを作業場に常備して摂取しても宜しいです。


ちなみに東欧のチェコのガラス工場では、作業者の水分や栄養分の補給のため、ビールを飲みながら作業する事が認められているそうです。うらやましい職場ですね。


さすがに我が国ではこの様な事は出来ませんので、私がお客様の労働衛生に関する技術指導をさせて頂く際には、飲料と共に梅干し(クエン酸が多い)やブドウ糖(すぐにエネルギーになる)などを作業場に常備するようにお話させて頂いています。


(3)作業環境を改善する

作業場の改善についてですが、WBGTの測定データは、作業環境の改善の基礎となるもので、日本産業衛生学会はWBGTを指標とした高温の許容範囲を定め、WBGT値で管理することを勧告しています。


この基準値を大幅に超える場合には、作業を中止すると共に、作業環境の改善を行う必要があります。作業空間の空調調整やスポットクーラーの設置、工業用の扇風機・冷風機の設置など工学的な対応が方策として挙げられます。


事例として、発泡スチロールの減容処理工場でのスポットクーラーと工業用扇風機の写真を以下に示します。





スポットクーラーは、作業者に当たるようにフレキシブルな構造をしています。特に減容機周辺では、温度が著しく上昇するためスポットクーラーに加え、工業用の扇風機を設置しています。


この様な設備は施設計画時に温度分布を予測し、作業者により良い作業環境を提供する目的で計画する必要があります。そして定期的な作業環境測定(WBGTを中心に)を行う事で、熱中症のリスクが軽減している事を確認しなければなりません。


(4)熱中症が発生した場合の対応

仮に熱中症が発生した場合の対応ですが、まず応急的な処置を事前に教育しておく必要があります。


何よりも水分・塩分の補給と体の冷却が必要です。特に冷却しても体温が低下しない場合、重度(重症度Ⅲ度、熱射病)の可能性もありますので、病院への搬送が必要になります。


このためには、予め作業者に対して熱中症に対する基礎的な知識を教育し、病院へのスムーズな搬送を含めた緊急時の対応を訓練しておかなければなりません。


対策を適切に講じれば、熱中症は必ず防ぐ事ができます。


これから更に暑くなる前に一度、皆様の事業所における作業環境をチェックされてみては如何でしょうか?


 
 
bottom of page