【プラスチックの豆知識】発泡スチロール製魚箱の表面にある“模様”の正体は?
- 本堀 雷太

- 2022年7月8日
- 読了時間: 5分
パナ・ケミカルの技術顧問を務めさせて頂いています本堀です。暑くなってきましたね。
さて、この会員ページでは、リサイクルに限らず、プラスチックに関する様々な情報を提供させて頂いています。
今回は、“プラスチックリサイクルの豆知識”として、「発泡スチロール製魚箱の表面にある“模様”の正体」に迫ってみたいと思います。
いきなりですが、下の写真をご覧下さい。

これは、水産分野などで多く利用されている発泡スチロール製魚箱の写真なのですが、表面に「小判の様な模様」が規則正しく付いています。
この模様、一体何のために付けられているのでしょうか?
鮮魚関係の方に伺ってみますと、「滑り止めだよ!」とか、「見栄えを良くするためのデザインじゃないの?」など、実に色々な答えが返ってきました。
また、魚箱の裏面を見てみますと、この小判型の模様に加え、四隅に丸く凹んだ模様も見られます。

この模様の意味も良く分からないですね。そこでまず、発泡スチロール製魚箱の素材と成形法について見てみましょう。
魚箱などに使われている発泡スチロールは、「ビーズ法発泡スチロール(Expanded Polystyrene : EPS)」と呼ばれるものです。ご存知の方も多いですよね。
EPSの成形法としては、まず揮発性の高いブタンなどに含侵したポリスチレンのビーズ(含侵ビーズ)を予備発泡させて、所定の発泡倍率を有する予備発泡ビーズを作ります。
発泡直後の予備発泡ビーズは気泡が不安定な状態にありますので、気泡内に大気中の空気を侵入させて安定化させるため、サイロ内で5~6時間熟成させます。そして、安定化した予備発泡ビーズを金型に充填した後、115~125℃の水蒸気で予備発泡ビーズが軟化するまで加熱して、再膨張と融着を行って形を付与(成形)します。離形後、乾燥室において、60℃で乾燥を行うことでEPS製の魚箱が完成します。


実は、この成形工程にこそ、EPS表面に付された模様の秘密があるのです。そこで、もう少し詳しくEPSの成形プロセスを見てみましょう。
EPS成形用の金型は、凸上のオス型と凹上のメス型から成り、このオス型とメス型の間に予備発泡ビーズを充填して成形が行われます。成形は予備発泡ビーズを加熱する事で更に発泡を行い、同時に熱によってビーズ同士を融着させる事で箱状に形が付与されるのです。
均一に気泡を成長させ、ビーズ同士をしっかり融着させる事で、実用に耐える魚箱とするためには、金型を均一に加熱する必要があります。
そこで、EPSの成形においては金型の加熱を、通常の成形で用いられることの多い電熱ヒーター(金型温調器)で行うのでは無く、加熱蒸気を金型の背面にある中空の「釜(フレーム)」に導いて行います。
フレーム内に導かれた加熱蒸気は金型に接する事で熱を伝えて金型の温度を上昇させ、金型内の予備発泡ビーズを加熱します。
つまり、EPSの成形においては、蒸気の熱が金型を介して予備発泡ビーズに伝えられているのです。

ところが、このプロセスでは、金型の外面に沿った場所に位置している予備発泡ビーズには熱を伝えられるのですが、金型内部の予備発泡ビーズには十分に熱が伝えられません。結果として、魚箱内部では、融着不良が起こり、強度不良などが発生する事になります。
そこで、金型内部まで熱が十分に伝わる様に、金型表面に蒸気の通気口が打ち込まれ、加熱蒸気が金型内部に充満する事により、金型内部を均一に加熱する工夫がなされました。
この通気口は単純に孔が開いているだけでは、金型内部の予備発泡ビーズが漏れてしまいますので、スリットや小さな穴が設けられた“板状の仕切り”を有する筒状の部品が差し込まれています。この部品の事を「ベント」もしくは「スリット」と言います。
このベントを介して加熱蒸気が釜から金型内部に送り込まれる事で、金型内部の予備発泡ビーズは均一に加熱されて発泡・融着が進み、魚箱へと成形されるのです。
勘の良い方ならもうお判りであると思いますが、最初に示した写真の魚箱表面に付された小判型の模様は、このベントの板状の仕切りの部分に金型内部で発泡・融着が進んだ発泡スチロールが押し付けられた際にできた模様なのです。
この模様は、ベントに設けられたスリットや孔の形状により異なりまして、線状のスリットが設けられた場合は、線の部分が盛り上がった小判型の模様となります。他方、孔がたくさん設けられたベントの場合は、小さな円形の出っ張りが規則正しく円形に並んだ模様が残ります。

ベントは、金型内部に均一に加熱蒸気を導くために、等間隔で満遍なく金型表面に打ち込まれていますので、ベントに由来する模様は等間隔で魚箱表面に現れるのです。
さて、発泡・融着が終わった後は、釜(フレーム)内に冷却水が導かれ、金型や成形された魚箱が冷却されます。そして金型が開かれ、成形された魚箱が取り出されます。
この時、加熱蒸気が供給された管より空気が送り込まれ、ベント内を通って魚箱を金型から押し出します。同時にフレーム内に設けられた押出版に付属した「押出ピン(エジェクションピン)」により、機械的に魚箱が押し出されます。
成形直後の魚箱はまだ熱い状態であるため、押出ピンで押し出す際に、押出ピンの跡が凹んだ形で魚箱の表面に残ってしまうのです。

これが2つ目の写真で示した魚箱の裏面の四隅にある丸く凹んだ模様の正体です。
結論として、
(1)EPS製魚箱の表面に規則正しく並んだ小判型の模様は、成形時に発泡・融着したEPSとベントとの接触により生じた模様である。
(2)EPS製魚箱の裏面の四隅にある丸く凹んだ模様は、離型時に押出ピン(エジェクションピン)によって付けられた模様である
という事になります。
何気なく見つけた発泡スチロールの表面に付された模様にも、深い技術的な意味があるんですね。
客先との何気ない会話の中や、見学者への説明の折などにこんな”プラスチックの豆知識”を披露してみるのも宜しいのではないでしょうか。
