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プラスチックリサイクルの未来を創る!

改正バーゼル条約に適応するための「資源プラ」という挑戦

1.はじめに―改正バーゼル条約が変えたプラスチック廃棄物の物流構造―

「バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)」は、有害廃 棄物の国境を越えた移動に関する国際的な枠組みや手続等について定めた条約である。

中国の輸入規制「国門利剣(ナショナルソード)」に端を発したプラスチック廃棄物の国際的物流に対する 社会の関心の高まりを受け、第14回バーゼル条約締結国会議において国境を越えた移動に伴って環境汚染を引き起こす可能性があるプラスチック廃棄物の取扱いについて協議された。その場でリサイクルに適さないプラスチック廃棄物の輸出規制が行われる事に決し、バーゼル条約の改正手続きが進められた。

今回の条約改正の最大のポイントは、全てのプラスチック廃棄物がバーゼル条約において網羅的に規定される事にある。表1に示した様にプラスチック廃棄物は条約上、「特別の考慮が必要な廃プラスチック」、「有害な廃プラスチック」、「非有害な廃プラスチック」の3種類に分類され、「特別の考慮が必要な廃プラスチッ ク」と「有害な廃プラスチック」についてはバーゼル条約上の規制を受ける事となった。

表 1.改正バーゼル条約におけるプラスチック廃棄物の取扱い
表1.改正バーゼル条約におけるプラスチック廃棄物の取扱い.jpg

但し、この規制は決して「輸出禁止措置」では無い。規制対象のプラスチック廃棄物であったとしても輸 出相手国の同意があればルール上輸出は可能である。しかし、世界的に高まりつつあるプラスチックに由来 する環境汚染への社会の厳しい眼を逃れ、汚染を引き起こす可能性のあるプラスチック廃棄物を輸出する事 は、今後非常に難しくなると考えるのが妥当であろう。

それ故にプラスチック廃棄物の国際的な資源循環の輪を維持し続けるためには、バーゼル条約に適応した 取引環境の整備や物流構造(チャネル)の構築が喫緊の課題である。

2.改正バーゼル条約に適応する手段としての「資源プラ」

現在の我が国におけるプラスチックのマテリアルバランスや再生プラスチック原料の取引市場規模を鑑みれば、プラスチック廃棄物の全量を国内でリサイクルする事は非常に難しい。我が国においては、再生プラスチック原料に対する需要自体が小さく、再生プラスチック製品の市場も十分に成長していない。法整備や社会の認知向上など様々な課題があるものの、現実的には人口減や高齢化の進行に伴って消費市場自体が縮 小傾向にある我が国においては国内のみで完結する資源循環の輪を維持する事は難しい状況にある。

従って、国際的な物流網を利用し、我が国がこれまで培ってきた優れた技術を活用する事で、多様なリサ イクルのチャネルを積極的に構築する方が現実的である。チャネルの多様化は、マテリアルリサイクルをビ ジネスとして持続的に営む上での最大の課題であるユーザーの掘り起こしや再生プラスチック原料の用途拡大、社会情勢の変化に伴う取引リスクの分散の観点からも資源循環戦略における大きな柱の一つとなる。

現状におけるプラスチック廃棄物の市場取引動向を鑑み、アジア地域において想定されるプラスチック廃棄物のチャネルとその問題点についてまとめたものを図 1 に示す。処理コストや再生プラスチック原料の市場規模、再生プラスチック原料市場のアクセス状況などを鑑みれば、我が国の国内のみで完結させるリサイクルシステムは現状では極めて不利であると考えられる。

図1.アジア地域において想定される資源プラおよびプラスチック廃棄物の物流シナリオ.jpg
図1アジア地域において想定される資源プラおよびプラスチック廃棄物の物流シナリオ

株式会社パナ・ケミカルは、安定で持続的なプラスチックリサイクルを推進する専門商社としての使命から、過去数十年わたり国際的な物流網に基づく流通チャネルの多様化に挑み続けてきた。

我が国はプラスチックのリサイクルに関する極めて優れた中間処理技術や再生処理技術を数多く有しているものの、プラスチック廃棄物の処理物や再生プラスチック原料を市場取引により安定に流通させる“仕組 みづくり”では二の足を踏んでいるのが実情である。それ故に、折角優れた数多の技術を有していても、こ れらの力を十分に発揮できていない。つまり、技術の持つ能力がプラスチック廃棄物の処理物や再生プラスチック原料の取引価値に十分に反映されていな“ミスマッチ”が起きているといえよう。

今回の改正バーゼル条約の施行に伴いプラスチック廃棄物の物流構造が激変している今こそ、プラスチック廃棄物の処理物や再生プラスチック原料の取引価値を見つめ直し、公正な市場取引を通じた新たなチャネルの構築に基づくプラスチックのリサイクルシステムを創り上げる絶好の機会であると我々は考えている。

その取引価値を支える要素の一つが「品質」であり、この品質に立脚した取り組みこそが「資源プラスチック(Resource Plastic)(通称:資源プラ)」という挑戦である。

資源プラは元来パナ・ケミカルの犬飼により提唱された概念であり、プラスチック廃棄物の処理物の品質向上により処理物の市場流通性を向上させる事で、円滑な静脈物流を維持する事を目的としている 2)。現 在、プラスチックリサイクルに関する物流、法務、技術の各分野における第一線の専門家から構成される一般社団法人資源プラ協会によりその普及が進められている 3)。

資源プラへの取り組みによるプラスチック廃棄物の処理物の品質向上を目指す事は、バーゼル条約の眼目である「国際的な廃棄物の越境に伴って生じる環境への悪影響を除く事」にも大きく資する。資源プラと は、有償取引に供されるプラスチック廃棄物の前処理後、中間処理後の処理物に適用される概念であり、取引上、品質面で一定の基準を満たす処理物について「資源プラ」との呼称を付与する事で、市場経済に叶った形での、流通上のインセンティブを付与するものである。

資源プラという取り組みを簡潔に述べるならば、プラスチック廃棄物を適切に処理した処理物の「品質」 の基準というものを明確に定め、この基準を満たす品質面に優れる廃プラスチック処理物については、「資源プラ」と呼び習わす事で、ユーザーに品質面で優れる事をアピールするという取り組みである。

この資源プラの定義については、一般社団法人資源プラ協会の専門家を交えた協議を通じて、図2の様に 定められた。

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図2 資源プラの定義(一般社団法人資源プラ協会ホームページ)より)

基本的には、「プラスチック廃棄物に適切な前処理や中間処理を施すことで、再生プラスチック原料の基材 として、有価で取引する事が出来る品質を保有する処理物の事」を資源プラと称するが、品質面のみなら ず、関係法令による規制も遵守し、また取引上の商慣行等の基準についても満たす事を要件としている。

この要件を満たす資源プラを製造する処理システムを構築する事ができれば、自ずと我が国での処理段階 で汚れや異物などの環境負荷の要因を除く事となり、処理物(=資源プラ)の物流過程における環境汚染の発生を極力減らす事が可能となる。

この点を担保するために、先に示した資源プラの定義においては、品質要件に「汚れの付着」や「異物の混入の程度」といった事項を明記し、更には「輸送時や保管時において物理的・化学的に安定であり、安全 かつ衛生的に取引ができる荷姿に仕上げられている事」と定めている。

また資源プラの定義の第 1 項に記されている「全量を再生プラスチック原料の基材として利用できる品質」という事項が資源プラという取り組みの最重要ポイントである。

仮に輸出先で新たな異物分別などの処理を施す必要が生じたとすれば、新たな処理に伴って輸出先の周辺環境を汚染する可能性は否定できない。この様な事態が発生すれば、輸出元(処理物を引き取った商社など)、ひいては排出事業者がその責を厳しく追及される事になる。

そのため資源プラの定義においては、物流の段階で「これ以上の前処理や中間処理を施す事無く、直接全量を基材として再生処理に供する事が可能である」という事を第一の要件に定めている。

つまり資源プラという取り組みにおいては、「商品としての市場流通性」とバーゼル条約で求められる「物流における環境調和性」の 2 つの課題を「処理物の品質」という視点で束ねる事により一気に解決する事が可能となる(図 3)。

この点が本稿の「資源プラという挑戦こそが改正バーゼル条約に適応するため手段として有効である」というテーマの理論的な背景となる。

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図3 資源プラが”一気に”解決する2つの重要課題

従来、廃棄物中間処理事業の一部であったプラスチックのマテリアルリサイクルにおいては、中間処理業者が得る「処理手数料」を軸に対価(お金)の流れが出来上がっていた。然るに処理手数料は人件費やエネルギーコスト、処理対象物(廃棄物)の発生量などの様々なコスト要因で変動するため、処理業者の収益安定化が難しい側面を有している。

他方、品質に依拠した資源プラの流通においては、処理手数料に加え、「再生プラスチック原料の基材」という“商品”の「売却益」の存在が大きくなる。この売却益は「品質」という市場における公正な評価に基 づいて定められる取引価格により決定されるため、品質を創り上げる事ができれば収益が安定し、事業の継続性に大きく資する事となる。これからのプラスチックリサイクルビジネスにおいては、この「処理手数 料」と「売却益」の調和を如何にして確立するかが事業継続のためのカギとなる。

3.パナ・ケミカルにおける資源プラへの挑戦
―資源プラの成功例としての「J-EPS recycling」―

プラスチックのマテリアルリサイクルが持続的な事業として成立するためには、「経済的な合理性」と「技術的な妥当性」の双方を満たす事が必須の要件である。

「経済的な合理性」とは、「処理物の物流(商取引)が経済的な合理的判断に基づき持続的に行われる仕組み」に依拠している事であり、補助金や助成金に依存し続けて資源循環の輪を”無理やり回す”のではなく、あくまでも「市場での公正な取引(需給バランスに基づく経済活動)」によって静脈物流の輪を維持するための基本的な原則である。従って、プラスチックのマテリアルリサイクルを持続的に営むためには、プラ スチック廃棄物の処理物や再生プラスチック原料が安定かつ継続的に取引される必要があり、この取引要件の一つが「品質」という事になる。これはまさに先に述べた「資源プラ」という取り組みと方向性が完全に一致しており、パナ・ケミカルも「資源プラ」への取り組みを経営戦略の基本に位置付けている。

パナ・ケミカルはマテリアルリサイクルの成功例として広く世間に知られている「発泡スチロールのマテ リアルリサイクルシステム」を確立した先駆者であり、現在もこのリサイクルシステムは進化し続けている ( 図 4 )。

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図4 発泡スチロールのマテリアルリサイクルの流れ

この発泡スチロールのマテリアルリサイクルシステムは、我が国発祥のマテリアルリサイクルシステム「J- EPS recycling」として世界的にも認知を高めている(図 5))。

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図 5. J-EPS recycling の解説サイト

J-EPS recycling はマテリアルリサイクルにおける「品質」に最初に着目したビジネスモデルであり、品 質に基づく経済的な合理性を確立する事で数十年にわたり国際的な資源循環の輪を安定に維持してきた。今やアジア地域のみならず我が国から遠く離れた欧州や北米地域まで廃棄発泡スチロールより”製造された” ポリスチレンインゴット(PS インゴット)は輸出されており、地球規模で資源循環の輪が拡大しつつある。

このプラスチックのマテリアルリサイクルにおける品質は、処理作業に従事する「ヒト」とヒトが使いこ なす「技術(処理技術と処理装置)」によって生み出される。ヒトの優れた能力を処理技術や処理装置が支え る形がプラスチックのリサイクルの理想形であり、従来の「廃棄物を処理する」という視点から一歩進んだ 「廃棄物を原料に資源(工業原料)を製造する」という大きな転換を促す事になる。

このヒトと技術のマッチングこそが「経済的な合理性」と並ぶ必須要件である「技術的な妥当性」という 事になる。J-EPS recycling においては、「発泡スチロールというポリスチレン(PS)を発泡成形した素材を如何にして脱泡減容し、再生処理に適した形状に成形(インゴット化)するのか」という技術的課題に対し、高い技術を有する専門メーカーが、商品である PS インゴットの取引実務を担うパナ・ケミカルと共に協 調しながら技術や装置を企画・開発してきた。「まず技術ありき」では無く、実際に処理作業を担う現場のニ ーズや意見をパナ・ケミカルが汲み上げ、本当に必要とするスペックをメーカーが作り上げていくという” 地道な努力”を長きにわたって積み上げてきた。「処理を担う処理業者」、「物流を担うパナ・ケミカル」、「技術を担うメーカー」の三者が共に創り上げた技術が J-EPS recycling を支えていると言えよう。そして、こ の挑戦は現在も弛む事無く続けられている。つまり「技術的な妥当性」を満たすためには、「単に処理が出来 る能力」ではなく、「経済的な合理性に基づいた取引に供する事が可能なレベルの品質を有する処理物を生み 出す能力」を保有している事が必須であると言える。

また処理能力のみならず、作業者が安全かつ衛生的な環境下で作業に従事できる仕組み(労働安全衛生) や、処理に伴って周辺環境を汚染したり、エネルギーなどの投入資源の無駄が生じたりしない仕組み(環境調和性)を満たす事も重要な管理項目である。J-EPS recycling を担う発泡スチロール減容処理装置は長き にわたる開発の歴史からこれらの事項についても十分に対応しており、他のプラスチックリサイクル装置と比べても、遥かに技術的な進歩を遂げている。

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図 6.J-EPS recycling の成功要因

プラスチックのリサイクルを取り巻く環境は劇的に変化し続けており、この変化の荒波を乗り越えるため には、J-EPS recycling で確立した「ヒト」と「技術」のマッチングによる「処理物の品質向上」が大きな ヒントとなる。プラスチック廃棄物の処理物の品質向上、つまり「資源プラ化」により処理物の市場におけ る取引価値が向上し、結果として「経済的な合理性」を満たす事に繋がる。この点において、J-EPS recycling は資源プラの先駆的な取り組みであり、我々はこの成功モデルを礎に新たな資源プラの製造・物 流モデルの創造に挑戦し続けている。

4.おわりに―資源プラが創るプラスチックリサイクルの未来―

改正バーゼル条約への対応はプラスチックリサイクルの世界で生きる者にとって間違いなく”死活問題” となる。これに適応する一つの答えとして、パナ・ケミカルでは「資源プラ」という取り組みに挑戦し続け ている。品質に依拠した資源プラは「経済的な合理性」に基づく市場流通性と、「技術的な妥当性」に基づく 環境調和性を兼ね備えており、バーゼル条約施行下で厳しさを増す国際的なプラスチック廃棄物の物流環境 下を生き残る力を有している。

<参考文献>

1)株式会社 パナ・ケミカル ホームページ https://www.panachemical.co.jp/ )犬飼健太郎:学協会ファイル 資源プラ協会,プラスチックス,70(5)(2019) )一般社団法人 資源プラ協会 ホームページ https://www.shigenpla.com/ 4)J-EPS recycling 解説サイト https://www.j-eps.com/

【筆者紹介】
1.株式会社 パナ・ケミカル 代表取締役 環境カウンセラー(事業者部門) 犬飼 健太郎
2.株式会社 パナ・ケミカル 技術顧問 本堀技術士事務所 代表 技術士(衛生工学部門、生物工学部門)、 環境カウンセラー(事業者部門)、労働衛生コンサルタント(労働衛生工学) 本堀 雷太