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【技術解説】
熱による劣化の指標としての
メルトフローレート(MFR)

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2021年4月25日

プラスチック成形の世界では、成形性(流動性)の指標として「メルトフローレート(MFR)」という値を良く利用します。 

日本産業規格(JIS)においてプラスチックとは、「必須の構成成分として高重合体を含みかつ完成製品への加工のある段階で流れによって形を与え得る材料」(JIS K 6900-1994 599、ISO472:1988)と定義されています。 

したがって、プラスチックの成形とは“流れ”によって形を与える工程でありまして、“流れの程度”、つまり“流動性”を把握する事が重要となります。 

通常、プラスチックの機械的強度などの物性は、プラスチックの主たる構成成分である重合体(ポリマー)の分子量の増加と共に向上します。 

その反面、重合体の分子量の増加と共に流動性(加工性)は低下してしまいます。 

故にプラスチックの流動性の目安として「重合体の分子量」を測定すれば良いという事になります。 

ところが、重合体の分子量測定というものは結構面倒なシロモノでありまして、ロット毎に測定するなんて事はとてもできません。 

そこでより簡便にプラスチックの流動性を測る指標として、「メルトフローレート(MFR)」という指標が導入されました。 

MFRは、「特定の試験条件のもとで一定の時間内に押し出される熱可塑性材料の事」と定義されます(JIS K 6900-1994)。 

なお、「メルトフローインデックス(MFI)」や「メルトインデックス(MI)」とも呼ばれますが、いずれもMFRと同義と捉えて頂いて構いません。 

特にMIは主にポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンの場合に使われる事が多い様です。 

この様にMFRはプラスチックの流動性を端的に表すため、成形用途や成形方法に応じたプラスチック原料を選択するための目安として非常に重要です。 

他方、このMFRという指標はプラスチックリサイクルの現場においても、「品質管理」などの視点で広く用いられています。 

今回は、パナ・ケミカルの”お家芸”である発泡スチロール(EPS)のリサイクルの現場において、「熱による劣化の指標」として用いられているMFRについてお話しさせて頂きます。 

まずは今さらながらですが、EPSリサイクルのおさらいから。 

発泡スチロールという素材は、母材であるポリスチレンという熱可塑性プラスチックに空気を封じ込めた気泡(セル)が分散した構造をしています。 

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卸売市場などの鮮魚・青果流通の現場から排出される通常の魚箱に使われている50倍発泡のEPSにおいては、その体積の98%が空気から成っています。 

このままでは取り扱いにくいため、マテリアルリサイクルを進めるために施される中間処理に際しては、セル中の空気を追い出す処理「脱泡」が行われます。 

通常、脱泡は、発泡スチロールを加熱する事で母材であるポリスチレンを軟らかくして流動化させ、圧延成形する事でセル中の空気を追い出しています。 

発泡スチロールから脱泡・圧延成形された状態においては、母材であるポリスチレンのみからなる板状のインゴット(PSインゴット)となります。 

このPSインゴットが再生プラスチック原料(再生ポリスチレン原料)に生まれ変わり、文具や玩具、日用雑貨、電材、電化製品など我々の身の回りにある様々な製品に再度加工されていきます。 

これが発泡スチロールのマテリアルリサイクルの大まかな流れです。この会員ページをご覧の皆様には“釈迦に説法”かもしれませんね。 

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さて話を元に戻しますが、EPSの脱泡処理を行う際に施される加熱には、”技術的な負の側面”があるのです。 

ポリスチレンは、「スチレン」という単位(専門的には、「単量体(モノマー)」といいます)が直鎖状に連なった構造(「重合体(ポリマー)」といいます)を構成しているのですが、加熱によりこの直鎖構造が“ランダム”に切れてしまうのです。これを「熱分解」といいます。 

この熱分解により、分子鎖長が短くなったオリゴマー(オリゴスチレン)に加え、様々な低分子がガス成分などの形で発生します

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熱分解が起き、ポリスチレンの直鎖構造の長さが短くなると、再生プラスチック原料に加工した際の物性が低下してしまいます。 

この物性が低下した再生プラスチック原料で成形した成形品は機械的な強度や耐熱性などの面で問題が生じる事があります。 

そのため、発泡スチロールのマテリアルリサイクルを行う際には、出来るだけ”無駄な加熱”というものを防ぎ、ポリスチレンの熱分解を抑制する必要があります。 

この熱分解こそがEPSのマテリアルリサイクルにおける”技術的な負の側面”という事になります。 

熱分解の程度は、最初に述べました「重合体の分子量」という指標で測定する事が可能です。

簡単に言ってしまえば、重合体の分子量とは、「重合体の直鎖構造の部分の長さ」であります。分子量が大きい程、長い重合体分子である訳です。 

加熱により重合体(ポリスチレン)に熱分解が起きれば、当然直鎖構造の部分の長さは短くなってしまいます。 

つまり、ポリスチレンの分子量の変化を測定すれば、熱分解の程度、ひいては後工程で製造される再生プラスチック原料の物性を推し量る事ができるのです。 

しかしながら、先にも述べました様に重合体の分子量を測るのは結構面倒でありまして、製品ロット毎に測定するなんて事はとてもできません。 

そこで重合体の分子量と“ある程度”の相関性を持ち、簡便に測定ができる「メルトフローレート(MFR)」という指標を代わりに用いるのです。 

MFRは、一般に「重合体の分子量が小さい」、つまり「熱分解の程度が大きい」ほど大きな値を示します。 

そこで実際にEPSに脱泡・減容処理が施された製品であるポリスチレン(PS)インゴットと処理前のEPSの母材として用いられたバージンPS原料のMFRの測定データを見てみましょう。 

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脱泡・減容処理は、 

(1)摩擦熱を利用した減容処理装置 
(2)電熱ヒーターを用いた減容処理装置 

の2種の装置を用いて行い、それぞれの装置を用いて得られたPSインゴットから調整した5つのサンプルの測定結果を平均したものです。 

この結果を見てみますと、バージンPSに比べ、脱泡・減容処理後のMFRは増加していることが分かりますね。 

これは脱泡・減容処理が施される際に加えられた熱の影響で、ポリスチレンの分子鎖が切断され、分子量が低下した事を示しています。先に述べましたマテリアルリサイクルにおける”技術の負の側面”ですね。 

そして「摩擦熱を利用した装置」と「電熱ヒーターを利用した装置」を用いた場合を比べてみても、MFRの数値は大きく異なっていますね。 

この違いは一体何に由来しているのでしょうか? 

先に答えを言いますと、「加熱制御の違い」にあると言えます。 

摩擦熱を利用したタイプの装置では、減容部における処理温度がポリスチレンのガラス転移点である100℃付近で制御されていまして、かなり低温で処理がなされています。 

またこのタイプの装置では、減容部へのEPSの供給と処理後の減容物の排出が自動的かつ計画的に行われており、減容部における滞留時間が適切に制御されているのです。 

つまり、減容部において「適切な温度」で「適切な時間」の加熱が施されていると言えます。

他方、ヒーター電熱を利用したタイプの装置では、減容槽内の温度が220℃付近とかなり高温状態で処理がなされていたのです。 

そしてこの機種では減容槽へのEPSの供給は特に計画的に制御されておらず、また減容物の減容槽からの排出についても重力を利用した自然流下によっています。 

故に減容槽内での滞留は制御されておらず、「脱泡に必要な熱量以上に過剰に加熱されている」可能性があるのです。 

したがって、摩擦熱を利用したタイプの装置で得られたPSインゴットの方が熱による劣化の程度が低く、この事が「MFRの数値が低い」という形で反映されたのです。 

この様にMFRという指標を上手に使えば、マテリアルリサイクルにおける物性の変化を捕らえる事ができ、処理物の品質管理や処理におけるトラブルの原因の把握などに利用が出来ます。 

今回はプラスチックの世界でよく使われる指標である「メルトフローレート(MFR)」について、マテリアルリサイクルの現場での利用例についてお話しさせて頂きました。 
 

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