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【技術解説】
プラスチックの簡易識別法としての
燃焼試験について

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2020年9月13日

先日の記事でプラスチックの種類を識別する事の重要性についてお話しさせて頂きました。

今後、安定な事業としてマテリアルリサイクルを営むためには、再生プラスチック原料の基材として利用可能な高い品質を有する「資源プラスチック(資源プラ)」を生み出す仕組みを築き上げる事が必須となります。

そのためには、排出された廃プラスチックから異なる種類のプラスチックを分別し、汚れや異物を徹底的に取り除く作業が必須となります。

この作業を適切に行うためには、第一に「プラスチックの種類を識別する」という技術を保有しなければなりません。

参考に現在よく使われているプラスチックの識別法をまとめたものを下図に示します。

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この識別の手段の一つとして「燃焼試験」について簡単に触れたのですが、この記事をご覧頂いた方からもう少し詳しく燃焼試験について説明して欲しいとのご要望を頂きました。

そこで今回はプラスチックの簡易識別法としての燃焼試験についてお話しさせて頂きます。

この方法は、プラスチックを燃やしてみて、(1)燃え方、(2)煙の特徴、(3)臭気の特徴、(4)発生するガスのpH、(5)残渣の性状などを観察して、プラスチックの種類を識別するというものです。

手軽に行う事ができますので、現場で最も行われている手法だと思います。主なプラスチックとゴムの燃焼時における挙動を下にまとめて示します。
 

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ひとえに“燃え方”と言いましても、「燃焼自体が起こるか?」、「炎を取り去っても燃え続けるか?」、「炎の性状(色とか煤の発生があるか)」などの点に注目して観察する必要があります。

例えば、ポリスチレンやポリカーボネートなどを燃やすと煤が発生し、黒煙が観察されます。

これは、分子中にベンゼン環を含むため分子中における炭素の割合が高く、不完全燃焼が起こり易い事に由来します。

従って、煤の発生が見られた場合、分子内にベンゼン環を含む可能性がある事になります。

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“臭気”というものも、識別のために大きなヒントを与えてくれます。

ポリスチレンを燃やせば、一部で熱による解重合反応が起こり、モノマーであるスチレンが発生します。御存知の方も多いと思いますが、スチレンには独特の香りがありますので、識別し易いと思います。

燃焼挙動の面白いものとしては、ポリアセタールが挙げられます。ポリアセタールの分子構造は形式的には、ホルムアルデヒド(ホルマリン)が重合した構造をしています。

そのため、燃焼すると解重合反応により、ホルムアルデヒドを放出します。また熱可塑性を有するため、燃焼の進行と共に溶けてポタポタと落下していきます。

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他方、同じようにホルムアルデヒドが硬化(架橋)に使われているフェノール樹脂などの熱硬化性プラスチックの多くも燃焼により、ホルムアルデヒドが発生し、独特の臭気が観察されます。

ただポリアセタールの場合と異なり、熱可塑性を有しませんのでポタポタと落下する事はありません。

また難燃性を有しているため、炎を取り去ってしまうと燃え続ける事ができません。

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この様にただ燃やせばよいという訳では無く、燃焼に伴って興る様々な現象を総合的に判断する事が重要です。

あと燃焼試験に関して触れておかなければならないものに「バイルシュタイン試験」というものがあります。

これはポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン、ポリクロロプレンなどのハロゲンを含むプラスチックを識別するのに使われる方法です。

通常、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンを燃やすと、熱分解により生成した塩化水素ガスの刺激臭を感じる事ができます。

炎の上部に濡れた青色リトマス試験紙を近づけると、赤色(ピンク色)に変色(=酸性)するため、塩化水素ガスの発生が示唆されます。

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よりダイレクトかつ簡単にハロゲン元素の含有を確認する方法が「バイルシュタイン試験」です。

まず、銅線をガスバーナーやガスライターで炎に色が着かなくなるまで十分に加熱してから、試料に接触させ、銅線に試料を付着させます。

そして再び炎の中に銅線に付着した試料を入れます。試料に塩素などのハロゲン原子が含まれていれば、炎が青緑色に変化するというものです。

この試験法は、花火に用いられている「炎色反応」を利用したものです。

例えば、ポリ塩化ビニルを銅線に付着させて炎の中に入れた場合を考えてみましょう。

炎の中でポリ塩化ビニルは熱分解し、塩化水素ガスや塩素ガスを発生します。

これらの塩素化合物が銅と反応して塩化銅(CuCl2)が生成します。塩化物の状態の銅は、原子化され易い状態にあり、低温で熱励起する事が可能で、しかも発光波長が可視領域の510nm付近にあるため、目視で炎の色の変化が観察される訳です。
 

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ここまでお話しさせて頂きました様に燃焼試験は非常に手軽に行う事ができ、その原理と目的とするプラスチックの化学構造を把握しておけば識別に必要な多くの情報を得る事ができます。

しかし、用いられている添加剤や充填剤の種類によっては異なる燃焼挙動を示す事もあり、“あくまでも簡易的な方法”である事をご理解頂きたいです。

厳密な識別が必要な場合は機器分析による精密識別法を行う必要があります。

紙面の関係で今回はここまでにしますが、精密識別法については改めて取り上げさせて頂きたいと思います。

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