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【資源プラ】
素材の単一性

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2020年6月19日

プラスチックのマテリアルリサイクルを円滑に進めるためには、「素材毎の分別」と「異物の除去」というものが必須であります。

目的とする廃プラスチックの中間処理物に他の種類のプラスチックや異物が混入すれば、後工程の再生処理へ悪影響を及ぼしたり、再生プラスチック原料の物性や機能の劣化を招いたりします。

資源プラの定義においても中間処理物が「全量再生プラスチック原料の基材として利用できる品質を保持する」事を要求しており、この品質とは「汚れの付着や異物の混入の程度、中間処理に伴う物性低下の程度などの事」と定めています。

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しかしながら、プラスチック原料の中には、複数種のポリマー(高分子)が混ざった「ポリマーアロイ」や「ポリマーブレンド」というものが存在しますし、フィラー(充填剤)が混ざられた「ポリマーコンポジット」というものも存在します。

プラスチックとはポリマー(高分子)をベースに添加剤や充填剤などを混入したものであり、「本質的に混合物である」という側面を有しています。

そのため、「アロイやブレンド、コンポジットは素材の単一性と矛盾するのではないの?」との疑問を持つ方もおられるのではないかと思います。

そこで今回はこの点について技術的な見地から考えてみたいと思います。

まず下写真をご覧下さい。

これは発泡スチロール製魚箱から中間処理・再生処理を経て製造された再生ポリスチレンペレットとこのペレットから成形された成形品の表面を実体顕微鏡で観察したものです。

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この再生ポリスチレンペレットには小さいながらもゴム片(恐らく輪ゴム由来)の混入が認められます。

このゴム片が成形時において“悪さ”をするのです。

ゴム片が除去されず成形品に混入してしまうと、ゴム片とポリスチレンとの間の界面張力に差があるため双方がなじまず(=弾き合う)、外部から力が掛かると、ポリスチレンとゴム片との界面領域から破壊が起き易くなります。

結果としてゴム片の混入が再生プラスチック成形品の機械的強度の低下を招く可能性があるのです。

ゴム自体はプラスチックと同じ様にポリマー(高分子)をベースとした素材なのですが、ポリスチレンに混入する事で再生品の物性を低下させてしまうため、素材の単一性を乱す異物として働いてしまうのです。

では、ポリスチレンにゴム成分が混ざる事は材料として問題がある事なのでしょうか?

実は一概に問題であるとは言えないのです。

御存知の方も多いと思いますが、ポリスチレン系の素材に「耐衝撃性ポリスチレン(High Inpact Polystyrene:HIPS)」というものがあります。

身近な所では乳酸菌飲料のボトルなんかに使われていますね。

この素材はポリスチレンとゴム成分を組み合わせたポリマーアロイの一種で、非常に優れた成形性や機械的物性を有しており、マテリアルリサイクルも盛んに行われています。

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HIPSの分子構造は、ゴム成分(主にブタジエン)にスチレンをグラフト共重合させ、かつゴム成分がポリスチレン分子鎖を内部に包含しつつゴム粒子を形成し、ポリスチレンマトリックス相中に分散しているモルフォルジーを有しています。

ざっくばらんに言いますと、ポリスチレンの海の中にゴムの島が“万遍なく”浮いている様なイメージです。

大切なのは“万遍なく”という点で、ゴム片がポリスチレンの中に均一に分散する事で、外力が掛かった場合にも外力を均等に分散させる事が可能となり、これが高い耐衝撃性を発現する要因となっています。

またポリスチレンがベースであるために溶融時の流動性に優れ、高い成形性を有しています。

ところが先に述べた再生ポリスチレン原料に混入したゴム片の場合は、ポリスチレン中に局所的にマチマチの大きさで存在するため、外力が掛かった場合にも均等に分散させる事ができず、破壊に繋がってしまうのです。

同じゴム成分が混入した両者の違いは何なのでしょうか?

それは「万遍なく、同じ大きさの粒子が分散している」という点なのです。

この事を理解するために異なる種類のポリマー(高分子)を混ぜた場合の挙動について見てみましょう。一例として、異なる2種類のポリマー(成分A、成分B)を混ぜた場合について考えてみます。

この場合、下図に示す様な3つのパターンが考えられます。

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一つ目は成分Aの中に成分Bの比較的大きな粒子(1μm以上)が分散している系で、これは馴染みにくいポリマー同志を混ぜた場合に見られるもので、いわゆる「単純ブレンド」というものです。

二つ目は成分Aの中に成分Bが中程度の粒子(0.1~1μm)として分散している系で、比較的馴染みやすいポリマー同志や馴染みやすくする工夫(相溶化剤の利用など)を行った場合に見られます。

いわゆる「ミクロ相分離型ポリマーアロイ」で先に述べたHIPSもこの範疇に入ります。

三つ目は成分Aの中に成分Bが微小な粒子状(0.1μm以下)で分散している系で、“ほぼ均一に混ざり合っている状態”であると見なす事ができます。

これを「完全相溶型ポリマーアロイ」と呼びまして、ポリスチレン(PS)とポリフェニレンエーテル(PPE)のアロイなどが知られています。

一般に物性的には、二つ目の「ミクロ相分離型ポリマーアロイ」が優れており、様々な手法でこの状態を作り出す事が試みられています。

いずれにせよ、ポリマーアロイもポリマーブレンドもポリマー同志を混ぜてミクロレベルで計画的に均一に分散させているという点で、「一つのプラスチック原料」として機能している点が重要です。

「一つのプラスチック原料」とは複数の種類のプラスチック原料が混ざった(いわゆるミックス品)では無く、物性や機能が一定のスペックで発現しているものであると言えます。

したがって、基本的にはポリマーアロイやポリマーブレンドについては、異物が適切に取り除かれ(前処理)、適切な中間処理が施された状態では「素材の単一性」を満たしており、資源プラの要件も満たす事になります。

なお、異なる種類のポリマー同志を混ぜた場合、分子レベルの単位で、相互にどの程度溶解するかという性質は「相溶性」と言いまして、再生処理などで大変重要な概念となります。

結構難しい話になりますので、相溶性については別の機会に集中的に取り上げたいと思います。

さて、あとはポリマーコンポジットなのですが、これは見解が分かれると思います。

プラスチックを構成するポリマーだけでは必要とする機械的な物性などが十分に確保できない場合、フィラー(充填剤)を添加して補う事が広く行われています。

家電系や建設系の構造プラスチック材料ではフィラーが良く利用されていますね。

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破砕や粉砕などの中間処理を施した場合、フィラー(特に繊維状フィラー)の機能が著しく低下する事がありまして、再生処理の段階でフィラーを追加配合する事があります。

他方、フィラーの存在をマテリアルリサイクルにおける異物として見なすケースもあり、国によってはフィラー含有中間処理物については輸入を規制している例も見られます。

しかしながら、アロイやブレンドの場合と同じく、フィラーを含有するコンポジットは「一つのプラスチック原料」として機能しており、適切な中間処理・再生処理を施せば確実にマテリアルリサイクルの輪に乗せる事が可能です。

故に「適切な前処理、中間処理が施されている」という資源プラの定義に適合すれば、コンポジットについても基本的には「素材の単一性」を満たしていると見なして問題は無いと私は考えています。

大切な事は、マテリアルリサイクルを通じて再生プラスチック原料の機能や物性を著しく損なわない事であり、この原因となる「異物」を確実に取り除く事にあります。

「素材の単一性」は資源プラ製造の基本であり、マテリアルリサイクルを円滑に進めるための必須要件です。

是非、皆様とこの基本的な考え方を共有できればと思います。