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【技術解説】
再生プラスチック原料が
バージン材よりも劣化する理由

【解説】株式会社パナ・ケミカル技術顧問 本堀雷太
2020年6月13日

「再生プラスチック原料の物性、特に機械物性は、バージン材よりも劣る」とよく言われます。

専門家の間でもこの点は古くから議論されてきましたが、中間処理や再生処理の工程で機械物性(特に動的物性)が低下するとの見方が大勢を占めています。

そのため、再生プラスチック原料を使用する際には、この物性低下をカバーするため、充填剤を混ぜたり、バージン材に再生プラスチック原料を適量添加したりする戦略が採られてきました。

では、この物性の低下はなぜ起こるのでしょうか?

大きな要因としては、(1)異物の存在、(2)分子量の低下の2点が挙げられます。

皆様御承知の様に、プラスチックのリサイクルにおいては、“異物除去の徹底”が不可欠です。

これは樹脂と異物の間の界面張力に差があるため双方がなじまず、応力が掛かると樹脂と異物の界面から破壊が起き易くなります。

そのため、再生プラスチック原料に由来する成形品では、物性が劣る可能性があります。

故に、再生プラスチック成形品の物性を向上させるためには、異物を出来るだけ取り除く事が重要という事になります。

これが、プラスチックリサイクルにおいて異物除去が重要である理由であり、資源プラ製造の基本的な方針でありますね。

しかし、現実には完全に異物を取り除く事は不可能です。

特に小さな異物や塩分など可溶性成分の完全除去は難しく、再生ペレットの中にはどうしても異物が混入してしまいます。

下の写真を御覧下さい。これは発泡スチロール製魚箱から作られたポリスチレンペレットの写真と、これを薄切りにして光学顕微鏡で観察した写真です。

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細かい異物の存在が認められます。この異物こそが物性を低下させている一因であります。

そのため、機械的物性がある程度必要な用途のためには、再生ポリスチレン原料に他の樹脂や充填剤を加えて物性の劣化をカバーしています。

例えば、再生ポリスチレンに耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を組み合わせるというのが、古くから行われているオーソドックスな戦略です。

さて、物性低下のもう一つの要因である分子量の低下についてですが、これは中間処理や再生処理の過程で起こる現象です。

プラスチックのマテリアルリサイクルにおける中間処理技術としては、圧縮、破砕、溶融、溶媒による溶解など様々な方法がありますが、これは減容によるハンドリング性の向上や再生処理のための前処理として施されます。

特に熱を加える溶融処理においては、プラスチック分子の主鎖が熱エネルギーや空気中の酸素の影響により切断され、分子量が低下します。

溶媒による溶解処理においても溶解時にはプラスチック分子の主鎖の切断は起きませんが、溶媒を除去する際に行われる加熱(蒸留)過程において、熱や溶媒との反応(加溶媒分解)などにより主鎖の切断が起きる可能性があります。

また、破砕処理においては、機械的なエネルギーを投入する事により直接的にプラスチック分子の主鎖が切断され、分子量が低下する事があります。この様な現象を「メカノケミカル反応」と言います。

この様に中間処理の過程においては、投入されたエネルギーの影響でプラスチックの分子量が低下します。

再生処理工程においても、破砕(粉砕)やペレタイズなど機械的エネルギーや熱エネルギーの投入により、分子量の低下が起こります。

つまり、中間処理や再生処理においては、必然的に分子量の低下が起こる訳です。

では、この分子量の低下が物性に与える影響を考えてみましょう。

そもそもプラスチックにおいては、一般的に分子量の増加に伴って強度や耐衝撃性などの機械的物性が向上します。

これは、分子量の増加に伴って、分子鎖同志の絡み合いや相互作用が強くなるからです。

この相互作用とは、分子間力や水素結合、クーロン力、疎水性相互作用、π―π相互作用など様々なものがありますが、主鎖の構成元素の種類や側鎖の官能基などの影響により発現しています。

御参考に高分子鎖に働く相互作用の大きさ(凝集エネルギー)の計算値と相互作用の種類を以下に示します。

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凝集エネルギーが大きければ、高分子鎖が集まって並び易くなるため、結晶性が高くなります。

例えば、ナイロン6の凝集エネルギーは24.3kJmol-10.5nm-1と大きな値を示し、事実、結晶性の高く(結晶化度20~30%)、エンジニアリングプラスチックとして使用できる機械的物性を備えています。

なお、上表において、結晶性プラスチックであるポリエチレンよりも、非晶性プラスチックであるポリ塩化ビニルやポリスチレンの凝集エネルギーが大きいのは変だなと思われた方もおられるかも知れません。

これはポリ塩化ビニルやポリスチレンの方が、エネルギー的には凝集し易いのですが、側鎖の置換基が大きいため立体障壁が高く、実際には結晶化できるほど強固に凝集できないと解釈できます。

さて、本題に戻りますが、分子量が大きくなると、当然主鎖が長くなる訳で、これらの相互作用が働く箇所が増加する事になります。

これにより分子量の増加に伴って凝集・結晶化が進み、機械的な物性も向上する事になります。

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先にお話しました様に、廃プラスチックの中間処理や再生処理の工程において、熱エネルギーや機械的エネルギーの投入によりプラスチックの分子量は低下します。

この分子量の低下により、プラスチック分子間における絡み合いや凝集の箇所が減り、機械的物性が低下する事になります。

一例として、ポリカーボネート(PC)の繰返し成形を行った場合の分子量と衝撃強さの変化を以下に示します。
 

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加熱を繰返すことにより、主鎖の切断が起こるため、分子量と共に衝撃強さも低下していく様子がお分かり頂けると思います。

つまり、プラスチックのマテリアルリサイクルにおいては、不用意に分子量を低下させる工程を避ける事が物性を保つための鍵となる訳です。

破砕処理においては、無駄な機械的エネルギーの投入を避けるため、必要以上に破砕を行わず、適切な破砕粒径を見定める事が必要です。

また加熱を伴う処理も同じく、適切な温度で、加熱回数を出来るだけ少なくするような、リサイクル工程の設定が必要となります。

さて、逆に言えば、中間処理や再生処理の前後における分子量の変化を調べれば、物性劣化の程度を把握する事ができる事になります。

ところが、分子量をいちいち測るのは結構面倒でありまして、製品ロット毎に測定するなんて事はとてもできません。

そこで分子量と“ある程度”の相関性を持つ、「メルトフローレート(MFR)」を測定する事になります。

なぜ、“ある程度”なのかと申しますと、MFR(=流動性)は分子量に加え、分子量分布、分岐構造の有無、分子構造の剛直性など様々な要因を受けており、分子量の影響はその中の一つに過ぎないからなのです。

※MFRについては、当会員ページ2014年3月8日の記事「メルトフローレート(MFR)の考え方」にまとめてありますので、そちらをご覧ください。

しかし、再生プラスチック原料のMFRを測定する事で、物性劣化の程度を把握する事ができ、成形方法の選択、商品の設計、充填剤の添加や他のプラスチックとのアロイ化など物性向上などの戦略を練る事が可能となります。

測定の容易なMFRを分子量変化の一つの目安として使う事は、再生プラスチック原料の品質管理に大いに役立ちます。

異物の管理とマテリアルリサイクル工程の適切な設定で、より高品質な再生プラスチック原料の基材、つまり「資源プラ」を“製造”する事が可能となるのです。

今回は、「資源プラ」の技術的な背景についてお話しさせて頂きました。
 

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